評価:★★★★☆ 4.3
5月、芝桜の咲く公園で、自動筆記者柳沢ことねは一人白鳥の湖の台本を読む男と出会う。
それは、いなくなってしまった伴侶を探すニホンオオカミの末裔で、ことねはその伴侶に瓜二つで―。
自動筆記、念写、夢見に幽霊?不思議な女の子たちがおりなすライトホラーノベル。……とはいったもののホラーではなく伝奇小説です。
『聲寄せ少女は死者を唄う』の続きです。1作目
聲寄せ少女は死者を唄う
http://ncode.syosetu.com/n3533dh/2作目(本作)
自動筆記者は白鳥と踊る
http://ncode.syosetu.com/n4726dh/3作目(次作)
夢見少女は水月を抱く
http://ncode.syosetu.com/n9979dj/4作目
蛇憑き少女の遠恋歌
http://ncode.syosetu.com/n0396do/5作目
聲寄せ少女の、さよならと、始まりの朝の歌 (完結)
https://ncode.syosetu.com/n3499ei/
時代:未登録
舞台:学園
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:R15
「そうしてふたりは、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」昔話ではお馴染みのフレーズですね。けれどそうは問屋が卸さないのが異類婚姻譚。「鶴女房(鶴の恩返し)」や「雪女」を読んで、「見るなって言われただろ!」「言うなって約束忘れたのかよ!」と思った方も多いのではないでしょうか。なぜ人は「見るな」の禁を破ってしまうのか。口をつぐみ、目をつぶってさえいれば幸せな生活が約束されているというのに。あちら側とこちら側の境界線は、どんなに相手への気持ちがあろうとも越えられないものなのでしょうか。あるいは相手を想えばこそ必要な引き際というのも存在するのかもしれません。そんな中で、自分の想いに正直に向き合う主人公たちはひたむきでまっすぐです。異類婚姻譚×女子高生による青春劇は、甘さだけではなくどこかほろ苦さをはらんでいます。切なさに身悶えしながら、それでも読んで良かったと思える作品です。
聲寄せシリーズは全部で五つありますが、一番大好きな本作にレビューを書かせていただきます。この物語に出てくる美術文芸部の女子高生達は皆特殊な力を持っていますが、それらはファンタジーと言うよりかは現実世界に深く根ざした人の心と人類の歴史という大河と接続し、読者に大切なものを気づかせ、与えてくれるような役目を持っています。ありきたりな能力モノではありません。良い作品というものは、特定のシーンにオリジナリティがあるだとか、どこかの文章表現が秀逸だとか、そういった部分的なものではなく、物語としてのうねりと、おそらく作者様が込めた大きな熱量が波となって読者の心に押し寄せてくるような総合的な奥深さが大切なのだと思います。日頃Web小説を読み捨てている方にも、この作品とはじっくりと向き合ってほしい。時には辛くなることも涙することもあると思いますが、その向こうには必ずや自身の成長が待っていると思います。
妖怪や幽霊、動物の化けたものなど、人間とは違うモノと人間。それらは、生きてきた時間も、場所も、考えかたや常識も、何もかもが違うのかもしれません。 それでも関わりをもったなら、お互いに理解しあいたいと思うのはおかしなことではないでしょう。 それでは、同じ人間同士ではどうでしょうか。 こちらもまた、相手の考えを知って、付き合って行くものなのかもしれません。 そのうえで、どうしても、「自分のなかの譲れないもの、信じたもの」がお互いにすれ違ってしまったら。 拳で語り合いましょう。 対立しても大丈夫。事件が解決すれば、きっと今まで以上に、絆が深まるはずだから。 自分が正しいと信じた一本線、そのまままっすぐ走れ!* こちらは「聲寄せ少女は死者を唄う」というシリーズの第二巻です。
此岸と彼岸、その接点に立つ特異な力を持つ女子高生たちの群像劇。 異類との絶妙な距離感が、作品世界に居心地のよい空気を醸し出しています。 妖怪モノ好きにもおススメ。 花畑での不思議な出会い、お菓子を巡る日常、憑きモノの遠い思い出、さがしものをする迷子の猫又、生と死を超えた師弟の絆。 それらが悲恋、ラブコメ、伝説、ホラー、スポ根&アクション……異なる切り口で描かれ、万華鏡のように様々な色合いを見せてくれます。 入念な研究と綿密な取材に基づいた描写は、情景がとてもわかりやすく、臨場感があってストレスなく読み進められます。 有名な古典などへの視点は意外性があって新鮮で、それが物語本編とどう絡むのかは、読んでからのお楽しみ。 読後、不思議なあたたかさが残る短編集です。