評価:★★★★☆ 4.4
沢田昭雄は、何処にでもいるような無気力な青年だった。三十歳の彼は、実家がある所沢市下山口を離れ、単身で東京の練馬区にある合金研磨加工の会社で仕事をしていた。
実家では、母親が薬剤師の仕事をしながら独り暮らしを続けていた為に、毎週末には母親の佐和子の顔を見る為にかならず実家に帰っていた。だが、彼が実家に帰る目的は、実は他にあった。
実家は、丘陵地帯に造成されたマンション街‘椿峰ニュータウン’内にあったが、その道程途中にある真四角で箱のような二階建ての一軒家に住む女性、奥山香苗に会うのが本当の目的だった。彼女は、永らく空き家だったその家へ一年前に越して来た。沢田と知り合ったのは引っ越して来た直後で、沢田が丁度実家へ戻る最中に、香苗が家で愛車の旧い赤色のポルシェを洗車している時だった。通りすがりの沢田が珍しい車だと思って近付いたのがきっかけだった。
四十五歳になる香苗は余りにも美しくて若く見え、沢田は彼女の魅力に惹かれてしまうが、ミステリアスな秘密も多かった。
話数:全8話
ジャンル:現実世界恋愛
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:現代
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
ネタばれになってしまいますが、恋人が不治の病に侵されて死んでしまう、という物語は幾度となく目にした気がします。ただ、そういった恋愛物の中でも、年齢差があるというのは余り無かったかなぁ〜と思いました。私は、バブル期にはまだ学生だったので、その時代の好景気感とか、ある意味異常さ?みたいな事象は余り知りませんが、確かに外車を所有したり、乗回すとかはきっとその時代の大人達にとってステータスみたいな事だったのでしょうね。ガン以外にも、人の命を簡単に奪ってしまう病気のことを、この話に出てくる病名で知り得たのは良かったと思いました。
以前にこの作者の小説を読んで、気に掛かったというか、関心が個人的にあったので読まさせていただきました。読んで感じたのは、他作と共通しているのは、物語の空気感が妙にあっさりとしているとうか、何処か空虚な気配が漂っているように思えました。それが狙ったものなのか、単なる偶然なのかは分かりませんが、最終話は何故か気がつくけば涙腺が自然と緩んでいました。なんか切ない物語でした。
現実世界の正当的な恋愛小説のようですが、この小説投稿サイトのほとんどが異世界をフォーマットにした魔界物のライトノベル的な小説ばかりなので、ちょっと違和感さえ感じました。しかしながら、ある意味こういう純粋な恋愛小説もこの投稿サイトの中では逆に新鮮ささえ感じましたね。話の展開から察すれば、物語 も佳境に差し掛かっているようで、今後どんな展開で終了するのか興味津々です。きめ細かな描写を表現する文章は、残念な事にこの小説投稿サイトには不釣り合いな感じさえするように思います。
年上の女性との恋愛ものですが、何処か謎めいていて、エロチックでもあり、切ない感じの物語だと思います。というか、今後この沢田と香苗の二人の関係がどうなっていくのか全く予想が付きません。ただ、二人の寄り添い方の距離感が少し焦れったくもあり、それがよりいっそう何かを期待させてくれるような嫌らしさを感じてなりません。それと、プロローグのシーンは何処にどういう風につながるのか、今後の展開が気になります。