とある科学者の偏愛もしくは狂気 完結日:2016年6月3日 作者:橋本洋一 評価:★★★★☆ 4.2 とある科学者の独白。鍵括弧を使わない小説です。全五回です。ホラーなのか自分でも分かりませんがとりあえずホラーにしておきます。芥川龍之介の河童をモチーフにしました。太宰治の駈込み訴えにも影響を受けました。夢野久作の作品にも影響を受けました 話数:全5話 ジャンル:ホラー 登場人物 主人公属性 未登録 職業・種族 未登録 時代:未登録 舞台:未登録 雰囲気:ダーク 展開:未登録 その他要素 独白 科学 注意:全年齢対象 なろうで小説を読む
この作品は取調室を舞台に、聴取を行う刑事の視点で描かれている。二人きりの密室で、犯した罪について語るを強要したそれは、狂人の一人舞台だ。狂人は語る。自らの生い立ち、罪の動機、その胸に抱いた情熱を。彼は言う、私は愛したのだと。真実、愛のためにそうしたのだと。悲劇に心縛られ、些細なきっかけが大きな違和となり、生まれ持った性癖が変質して、そうせざるを得ない人間が出来上がったのだと、狂人は嘯く。繰り返そう、狂人の弁に耳を貸すなかれ。彼の為した行い。その罪は語るもおぞましき、目も当てられぬ醜悪そのものだ。愛の冒涜。信頼への裏切り。人を人とも思わぬ自慰行為。それを彼は、愛と呼ぶ。これを読もうとしている君よ。忘れてくれるな。間違えてくれるな。そこに愛などありはしない。ひたすらに狂気的な、おぞましき執着。それを彼は、愛と言っているのだ。
主人公真人はある罪を犯して取り調べを受けていた。殺人と死体損壊。被害者は真人の妻。真人の口から語られるのは幼い頃から異常なまでに骨を愛していたこと、それから、妻を殺すまでの人生。狂気と正気は紙一重。何が正常で異常なのか。真人は言う。妻を、骨を愛しているから殺したのだと。憎しみではなく、愛が彼を突き動かした。一人の異常性愛の殺人犯が語る半生を、読んでみてください。きっとあなたも、この狂える世界にはまっていく。
まず本作品で主人公は自分を狂っていないと主張しているが、間違いなく彼は狂気に侵されていると読んでいただければ解るだろう。骨に対する異常な執着、偏愛。それは動物に限らず愛する者にまで向けられる狂気。独白で綴られる文体には不思議と惹きこまれる魅力と、そこはかとない美しさがある。当世のライトノベルを好まれる方にも読んでみてほしい。夢野久作などを好まれる方にもぜひ読んでみてほしい。この物語は骨を偏愛するにも似た、クレイジーな美文である。
まずこの小説は【独白体型式】を取っております。 「嗜好が特殊な人間」が粛々と、自身の愛したモノ、【愛】に取り憑かれたが故の行動を語ります。…何処で、誰に、何故、それを語っているかは読んでみてください。 この小説は掛け合いの無い独白です。それ故、語られる内容は猟奇的ながら何故か静かな印象さえ受け、紳士的にさえ感じてしまいます。 静かに語られるからこそ、この物語はあなたの心臓を冷やしてくれるでしょう。 これは狂気?それとも【愛】?科学者が取った行動は愛故の妖しく美しいものなのか、それとも狂気の沙汰なのか。ずっしりとした読後感に浸れる一作です。
とある科学者が取調室で刑事に独白する形で、この話は進められます。科学者が独白することとは、如何にして自分が「骨」を愛するようになったのかという話です。「骨」というと何の骨を思い浮かべるでしょうか?魚の骨? フライドチキンの骨? これらを思い浮かべた人は大丈夫でしょう。この科学者と同じ道を歩むことになる可能性は少ないはずです。博士が愛したのは生きた人間の骨です。小さい頃に見たとある出来事が原因で科学者は骨の美しさに魅了されてしまうのです。そして行き着いた先は、歪んだ愛情です。科学者が取調室にいることからも結末は予想することができるでしょうが、科学者が実現した幸せな暮らしには狂気を感じるに違いありません。