評価:★★★★☆ 4.3
むかし、昔、あるところに。一人の美しい娘がおりました。
その髪は艶やかに波打つ朝焼けの金。
その肌は象牙のようになめらかで、透き通るような柔らかさ。
いにしえの聖女のようなかぐわしき顔を飾るのは、鮮やかに青い海生石そのものの瞳。
高貴な姫に勝るとも劣らない美しい娘に、街中の男達がぼうっと見とれ求婚しますが、彼女はどんなにすばらしい偉丈夫でも首を横に振るばかり。
それもそのはず、彼女には幼い頃から心に決めたものが居たのです。
ただし、この街のものではなく、人ですらない。
彼女が恋したのは、海底都市を守護する海の化け物。クラーケンだったのでした。
※アルファポリスにも投稿しています。
話数:全19話
ジャンル:
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
波間に少女の体はさらわれる。ゆらゆらと。ゆらゆらと。瑠璃色の海が小さな体をさらって、果ての無い水の底へと誘った。 死ぬのかな。ぽつりと声なき声で呟いた。水面まで手を伸ばしても、掴める物は泡沫だけ。意識が青に溶けてゆく。 けれども。 けれども。 海神の息吹がその幼き手を見離さなかった。海底より伸びた触手が、少女を支える。体温無きはずのその皮膚が、何故かひたすらに暖かい。幼き命の炎を、力強く守り抜く。 その必然たる出会いは、運命という名の交差点。 種族の壁を超えた交流は、宿命という名の血の記憶。 そう、ここに紡がれるは、海に生きる少女と人ならざる海洋生物の――豊穣なる海の青に愛された物語。
海と共に生きる潜り手の少女アーシェ。彼女は溺死寸前のところをクラーケンに救われ、それがきっかけで彼?に恋をするわ。普通、この手の異類婚姻譚は対象が人間、あるいは人間に近い姿をしてるのが定番よね。鶴は白い着物の美少女になるし、人魚姫は上半身人間だし、戦艦は娘になるし、刀剣は男士だし。「異類婚姻譚? 結局は『※ただしイケメン(または美少女)に限る』の延長線上じゃん!」って不満気な読者もいたかも。一方で、本作のクラーケンは違う。巨大で青紫色の外見。人間の体の何倍もの太さがある、刺の付いた触腕。おまけに近づくと磯臭い。どう見てもただのイカでしかないわ。イケメンどころか人間ですらない。だけどクラーケンは冷静で、思いやりがあって、時には身を挺してアーシェを守ってくれる。長きに渡り心を通わせた相手に惚れることを、誰が不自然だと言えるかしら?新しい愛の形を教えてくれる傑作。
『初恋はクラーケン』 このタイトルを見た時、正直はわたしは首を傾げた。 一体、なにを言っているのだろうかと。 クラーケンといえば、海の化け物だ。 人外も甚だしく、初恋と真逆の存在ではないだろうか。 あぁ、そうか。 クラーケンが実はイケメンに変身しているとか、そういった設定なのか? そんな事を思い、読み始めて。 すべては勘違いであったことを思い知らされました。 正真正銘、人外。 海の魔物で、沢山の触手と不気味な姿。 けれど、とても優しい心の持ち主で。 主人公のアーシェを大切に思ってくれているのが伝わってきます。 二人(といっていいのか。片方は人外過ぎるので少し躊躇いますが)がこれからどんな運命を辿るのか。『初恋はクラーケン』 人×人外が好きな人はもちろんのこと、人外はちょっと……という方にもお勧めしたい物語です。 是非、読んでみてください。