滾れ！　群山学園ＴＳ部

TSF―性転換フィクション。一般的に忌避され、日常的に誤解され、かと思えば内輪でも度々是非を問う言論が交わされる奇妙なジャンル。そんなニッチを愛するヘンテコな高校生らが図書部に集い、日々TSFに滾る思いを語り合う。果たして、そんな彼らは「TSFが現実になったら」どのように向き合うのだろうか……。本作は学生達のコメディーノベルという体を取ったTSFジャンルを解説する半エッセイ。劇中にはあらゆるTSF作品のパロディやTSFジャンルあるある話はもちろん、古典文学からもTSFネタを引っ張ってくるなど作者の知識の豊富さには同じTSF好きとして舌を巻くレベル。ただ、作品的には中庸の姿勢であるが故かWEB作品の変遷には欠片も触れられていないのが唯一にして最大の難点。本作を通じて語られる「手が届かないからこその魅力」。TSFという魔性に魅入られた変人達はそれを知ってなお突き進むのだろう。

ＴＳ（トランスセクシャル＝性転換）物の作品は、正直ニッチな嗜好で好き嫌いの大きく分かれるジャンルです。そしてＴＳジャンルの中にも様々な派閥や拘りがあり、結構カオスな状況になってるように思えます。さて、この小説の基本部分はＴＳ物を愛する男子生徒達が熱く語り合うお話です。ＴＳ好きな人は何故ＴＳに惹かれるのか？ＴＳ業界にはどのような派閥やサブジャンルや地雷があるのか？古今東西の名作ＴＳ作品を交えつつＴＳ物の魅力について掘り下げていくスタイルは、エッセイのような側面を持ちＴＳ好きの方には「あるある」や「あの派閥の人はこう考えてるのか」と思わせるネタに溢れています。作者様のＴＳ作品全般に対する考察の広さと愛の深さを感じさせる、異色ながら珠玉の作品です。ＴＳ物が好きな、またそこまで行かずとも抵抗無く読める方には、ＴＳ作品を読む際の副読本に強くオススメする一作でございます。