評価:★★★★☆ 3.9
ごくり、と飲み込む三ツ矢サイダーの味は、ほろ苦い。…どうしてだろう…。
初恋を経験した私が飲んでいたのは…『アクエリアス』だったはずだ。
…そう…だったよね?
車窓から、あの懐かしい風景が、近づいてくる。エメラルドグリーンの海が陽光にきらめいていて、空を見上げれば尾道大橋が視界に入る。
海が見える、海が見えた。
何年かぶりに見る尾道の海は懐かしい……っていうのは、林芙美子だったっけ。
私は今日、お嫁に行く。…ああ!私の大好きな、あのまばゆいばかりに輝く海、光の洪水へと、私の麦わら帽子が吸い込まれて行く。
風に…ひるがえり…そう、私自身の屈託のない笑い声とともに…ひるがえりながら…、
その帽子を、前を歩いていた少年の手が、しっかりとつかむ。
笑いながら振り返る少年の顔は、いつしか私とともに大人へと成長し、そして…。
私は今日、お嫁に行く。
いくつものあの人との想い出を、心という名前の宝石箱にちりばめながら。
話数:全54話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
心に響く……様々な創作物において、褒め称えられる時に使われる文言であり、全米が泣いた、や超傑作ホニャララの如く使い古された言葉であるが、この作品は本来の意味で【心に響いてくる】素晴らしいヒューマンドラマだ。対照的な2人の双子の少女を主軸に据え、それを取り巻く周りの人々の想い、葛藤、対立、和解、結末……しっかりと練り上げられたプロットと高い文章構成力、押しつけがましくなく、静かに寄り添うような暖かい文章の数々……丁寧で繊細、それゆえに美しい著者の実力がありありと伝わる素晴らしい作品であり、静かに優しく我々読者の心に暖かいモノをもたらしてくれる。昭和の広島県尾道を舞台に展開される濃密なヒューマンドラマ、彼ら彼女らの青春時代特有のままならない日々の物語、等身大の少年少女の葛藤の記録、是非とも読んでみていただきたい。読了すれば暖かい何かが胸中を埋める事だけは確約できるから……
その昔、尾道までふらりとドライブをしたことがあります。青二才だった僕が胸を打たれた、あの情景。映画の中だけだと思っていたあの美しくて切ない風景は、それとまったく同じ姿でそこに在りました。あれから四半世紀、親になって、思い出は日常に埋没して。この物語に出会わなければ、きっとそのまま忘れてしまっていたと思います。秀逸な表現で織り込まれた、親になったからこそ共感できる数々の感情の揺れ。そして、それが美しさと切なさをちりばめた情景に乗って、得も言われぬ郷愁の念として読む者に届けられます。彼女のライフワーク的な刑事シリーズとはまったく違う作風ですが、たくさんある成宮作品を読み始めるにあたって絶対に最初に読んでもらいたい作品。まさに成宮りんワールドのルーツと言える物語です。きっとあなたも、尾道の街が育んだ彼女の人柄を愛してしまうことでしょう。
∀・)こんにちは!イデッチだよ~!さきほど成宮りん様のデビュー作にレビューを書かせて頂きましたが、またも登場しました。こちらもその時期にあたる作品になるようです。A・*)そしてこの作品、推理モノでなく、なんと青春純愛モノです。可憐な女の子たちが登場してきます。勿論シリーズを彩る各キャラクターも登場していきますが、注目どころはダンディな父の姿をみせてく高岡聡介さん!!そうなのです。ただ学校という狭い世界で終わる純愛モノでないのです。ヒューマンドラマとしての魅力も兼ね備えた名作でもあるのです……!∀・*)さぁ、そこのあなたも!ときに甘酸っぱく、ときに甘苦くもなる青春を読んで味わおうではないですか!!
作者である成宮氏は、普段警察小説を執筆されてます。ですがこの作品は青春小説であり、成宮氏が手がける警察小説シリーズの原点という一見すると相反する物ですが、この作品無しに成宮氏の作品を語る事は出来ないと言っても過言ではありません。 甘く切なくそして爽やかに描かれた青春ドラマのような小説でありながら、成宮氏の描く世界の’‘最初’’に触れる事が出来るという一つで二度美味しい作品です。
時代は少し遡りますが、その景色は広島にあります。広島は尾道。尾道と言えば、坂の街、文学の街、映画の街として有名ではありますが、こんな景色は如何でしょうか?複雑な家庭環境を抱えた高校生たちが、歪みつつも真っ直ぐ生きよう、恋しよう、愛そう、とする風景は、いじらしい程の透明感です。いや、大人達も負けず劣らず、その絶景を引き立てています。全てが主役になり得る景色なのです。優しい淡い色に癒されるのも良し。匂い立つビビットな色に心を奪われるのも良し。全体を引き締めるダークな色に共感するのも良し。あなたの感じ方で如何様な景色にもなります。携帯電話などが無い為、電磁波を気にする事もありません。費用だってかかりませんし、移動時間だってクリック一つ!これは行ってみるしかありません。あなただけの絶景が待っています。
あなたは、10代か?20代か?30代か?40代か?どういう性格が災いし、どういう失態を犯してきた?この作品の主人公は、あなたが何者かによって変わる。昭和の広島県を舞台にした、「すでに崩壊した家庭」。いや、ちがう。「この子」がいなければ何の問題もなくなるのだ。元凶の母親は、もういないのだから。あなたは、「この子」に同情できるか?あなたは、「この子」に味方できるか?俺は出来なかったね。父の日までは。
「80年代の少女漫画タッチ」と、「80年代の尾道市の『リアル』」を、巧みに使い分けながら織り上げた作品です。昨今の漫画のようなどぎつい表現がなく、「少女の純粋さ」を、徹底的に作り込み、大事に仕上げた作品、ともいえます。文章は綺麗で分かりやすく、スラスラと読めます。ラノベの日常シーンを「日常回」と呼びますが、この書き手様に関しては、もはや形式化された「日常」ではなく、作者の内面から生まれた、極めてリアルな「日常」であり、テンプレ作品ではありませんし、書き手様独自の個性が遺憾なく発揮された「日常」です。キャラクターは、相当、深い部分まで練られています。キャラクター独自の個性を追うだけでも、充分に楽しめるでしょう。「作品を大切にする」ということの重要さを教えてくれる良作です。斜め読みできるほど飛ばし書きされた作品と、ぜひ読み比べてみて下さい。本作の素晴らしさがご理解いただけるはずです。