評価:★★★★☆ 4
戦後間もなく、東京周辺三十三カ所に突如出現した異空間。
〈こちら〉とは全く違う法則に支配された場所に繋がる「そこ」は〈不可知領域〉と命名され、いつしか〈迷宮〉と通称されるようになる。それから半世紀以上が過ぎた現在、〈迷宮〉はレアな物質を採取するための場所として認知され、東京という都市の風景にすっかりとけ込んでいた。
それら〈迷宮〉に挑む探索者たちは、一攫千金を狙う者か、それともなんらかの理由で一般社会から弾かれた訳ありか。
とにかく、まともな人間が迷宮に入る例は少なかった。東日本大震災で住む家を失った早川軍司は孫の静乃とともに息子を頼り習志野へと移住する。
そこで息子の誠也から、「どうせ暇なら」と探索者になることを勧められ、以降、探索者として活動するようになる。
もはや家族のこと以外、憂慮すべきことはなしと思い定めた老人の、過去と現在が交錯する迷宮生活がはじまった。「カクヨム」「セルバンテス」でも公開しています。
話数:全15話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
人は誰でも年をとる。人生には侭ならぬこともある。そして迷宮に人が潜るとき、そこにも侭ならぬ現実がある。この物語は、迷宮に潜る老いた猟師が主役である。老猟師は震災で息子夫婦を失い、原発で故郷を失い、千葉県に孫と避難する羽目になったのだ。現実世界に迷宮が出現した世界の中で、生活のため、暇を持て余して、老犬を友として迷宮に潜り続ける。命がけの迷宮に挑み続けるという日常は激動の中にあるようで、老いた猟師にとっては狩猟であり、人生への諦観と猟師としての誇りを刺激される場所でもある。多くの人の人生を飲み込む、不条理な迷宮という存在。その不条理に向き合う人間には、人生の不条理を体験し飲み込んできた老いた猟師のような人間性が必要とされるのかもしれない。この物語を読むと不安になる。人生の後半を否応なく意識させられる。東京迷宮には、それだけの力がある。