評価:★★★★☆ 4.1
西暦、2×××年。グローバル化の波に飲まれる日本では、日本語書籍の年間発刊数が規制され、その影響を受けた書店で洋書ばかりが氾濫する事態が起きていた。
「我々はいかなる言語が氾濫しようとも、日本語書籍を支持します」
そんな環境下で立ち上がった団体がいた。すっかり廃れてしまった「着物」を身に纏った彼らは日本語書籍を普及させるべく、自らの手で小説同人誌を作り、販売するという運動を展開していた。
【彰考会】
その組織に預けられた、記憶を半分失った少女。望月史奈は「自分」とは何かを見いだせずもがいていた。
アンドロイド、バケモノと影で囁かれているはずなのに、何故か自分を取り巻く近くの人間は皆優しい。過去が知りたい。その想いが膨らみ続けたある日、禁断の扉はあっけなく開かれた――彼らが日本語で戦いを挑み続ける理由とは。
それぞれが胸に秘めた熱い想いとは。Special Thanks!
英文訳 零零機工斗
キャラクターデザイン 一斗缶
話数:全23話
ジャンル:仕事もの
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:R15
言葉は生き物である。生まれ、文化環境に即して育ち、沢山の言語が派生して生じ、いずれは滅びゆくものも多い。この物語の登場人物たちは、絶滅の危機に瀕した日本語を愛でる。あたかも生き物と同等に扱い、慈しみ、また排斥に対し強く抗議する。国際化の波が押し寄せる中、新たに自国の文化を見直す。このことは現代社会にとっても必要であろう。また奇しくもこの物語が書かれている最中に、逆にそれを現代が証明してしまった。隣国の大統領がナショナリズムを取り人気を博しているようである。日本語の起源はいまだ明らかになっていないという。なんとも神秘的で、美しいではないか。この、四季を表現し、複雑で敏感な感情を表すことたけた不思議な言語を、世界的に見て文化的隔絶の感のある言語を、確かに受け継いだことに誇りを覚えた。日本語がなお連綿と続く明るい未来が予測できるエンドに、私は涙をこらえきれなかった。
言葉とはただの伝達の手段にあらず。文化そのものである、とはどこかで聞いた話だ。この小説は、それを主張する。声高にではなく、あくまで物語として柔らかく。 英語の浸透により日本の書物から日本語が圧迫されたという設定は、あり得そうな気がする。自然淘汰の必然の果てならば、それも仕方ないのであろうか? 否だ。少なくとも日本には、先人が培ってきた日本語があり、それを誇りにしてきたはずなのだから。少数派となった和書を守る為、彼らは立ち上がる。 その装束は、瑠璃紺色の上衣に濡羽色の袴。刃物は持たねど、心に秘めたる決意は刃の鋭さを持ち。グローバル化の波から日本語の美しさを守らんと――決然とリアカーを引くこともあれば、同人誌だって作る。 悲壮感はなく、けれども熱い物を懐に偲ばせた彼らに、ささやかな敬意を以て応えよう。読者たる我々は、日本語を読むという行為を以て。