木漏れ日のひと 完結日:2017年8月4日 作者:佳絵 評価:★★★★☆ 4.3「お母さんがいないの」 少女は私を見上げてそう言った。涙で濡れた顔、腫れた目、あちこち捜しまわったのであろうか息が切れている。困ったなと私は思う。母親ならば私が今――。 ※虐待表現があります。 話数:全3話 ジャンル: 登場人物 主人公属性 未登録 職業・種族 未登録 時代:未登録 舞台:未登録 雰囲気:未登録 展開:未登録 その他要素 注意:R15 残酷な描写あり なろうで小説を読む
ホラーというカテゴリにあるが、これは大人のためのお伽噺である。淡々と綴られる愛情にきっとあなたも心を打たれるはずだ。どこか絵本を眺めるように、物語は進む。薄幸の少女の人生は、森の中でそよそよと枝を揺する大木とともに緩やかに変わっていく。まるで丸い林檎が少しずつ赤く色づくように。「彼のひと」は、「母」であり、「夫」である。世界であり、彼女を見守る全てである。少女がそれを知ることは決してないけれど、それで良いのだ。無償の愛とはきっとそういうものである。少女に幸福を与える「彼のひと」は、人の世の価値観を知らない。それでも積み重ねた不器用な愛情は、いつしか全てを木漏れ日色に塗り替えるのだ。何も知らない少女と、全てを知る「彼のひと」は確かに家族なのである。どれだけ隣で過ごし愛情を示しても、最後まで「彼のひと」の本性は変わらない。だからこそ物語の結末はこれ以上ないまでに美しい。
少女と一本の木が織り成す、残酷で優しいおとぎ話です。物語の大元たるは世界の過酷さ。それを幹に例えるなら、数多の哀しみは枝葉。けれど、そこに実った果実はとても綺麗で美味しくて。滑稽な悲劇。矛盾をはらんだ喜劇。一つの事柄は、視点を変えればいくらでも異なる姿を見せるのだと、教えてくれる物語です。木漏れ日の下で読んでみるのも一興かと。