評価:★★★★★ 4.5
夜しか営業していない奇妙な遊園地『裏野ドリームランド』では、死に別れた人間に会えるという。チケットに名前を書いて観覧車に乗れば、ゴンドラの中にその人が現れる。僕が呼び出した最愛の彼女は、しかし僕が誰か分からず、自分の身に起きた悲劇も覚えていなかった。それでも僕は、夜明けまで彼女の手を離すわけにはいかなかった。
生者と死者が入り交じる夜の遊園地で、一晩限りのデートが始まる。
話数:全5話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
ちょっとでも内容や感想を書くとネタバレになりそうで、怖くて書けません。先入観ない状態で読んだ方が絶対に面白い。私は先にレビューを読んでしまったので、おおすじが解ってしまった。残念です。解っても楽しめる事は楽しめたのですが、これから全く予備知識なしで読める人が羨ましいただ…まぁ、結末は読んでると予想がつくのではないでしょうか?それを含めて楽しんで頂けたらと思います。
夜の遊園地で死者と生者の一夜限りのデート。とてもロマンティックな物語。でもこれホラーです。「僕」と「彼女」のデートシーンを彩る風景。卓越した文章力で紡ぎだされるリアルな描写は、徐々に二人の幸せの一時と乖離し初め、おぞましいはずの光景が、クールに淡々とそこに佇んでいる。思わず物語に引き込まれる導入、謎めく二人の関係。徐々にひたひたと迫り来る終わりの刻。クライマックスにひっくり返される瞬間、心地良い感動を感じる。読み終わった後にまた最初から読み直したくなるくらい。登場人物達の痛い程の心の叫びに、想いに、思わず心を揺さぶられる。ホラーもあり、ミステリーもあり、愛もそこに確かにある。不思議なお話。計算し尽くした構成力、巧みな文章力で読者を酔わせる。一夜限りの物語。ホラーをあまり読まない私ですが、今まで見たホラーで一番感動しました。ホラー好きな方にも、普段読まない方にもお勧め。
その観覧車に乗れば死に別れた人と一晩だけ会うことができる。人々は祈るような気持ちで観覧車に乗り込んでいく。過ごせるのは遊園地の敷地内だけ。たった一晩。ある男が望んだ相手は自分のことを知らないという少女だった。二人の関係は謎めいている。少女は何者で、何より彼は誰なのか。そして何を思っているのか。この謎が解けた瞬間、ああ、と空を見上げたくなります。気持ちとは、そういうものだ、と思うのです。言葉にならず、浮かび上がるような。それでいて理屈の通らない、のっぴきならないもの。彼や、またそこにあったそれぞれの、たくさんの気持ちも同様に。彼の想いを知った時、私の世界はみごとにぐるりと回転した。鮮やかな一本背負みたいに。
夜にだけ明かりを灯す遊園地で、一夜かぎりの奇跡がおきる。男の決意が少女を招きーー彼女の忌まわしい記憶が蘇る時、観覧車は廻り、道先案内人のウサギは跳ねる。硬筆な文章で綴られる不可思議で恐ろしい世界。そこに交差する少女たちの思いと、男の思惑。なにが善で。なにが悪なのか。この物語りの多くをこれ以上語るのは、無粋になるかもしれない。読者一人ひとりが作者の紡いだ謎と恐怖。そして隠された親愛の情に対面してもらいたい。見事なまでの構成と、卓越した文章。ここまで完成度の高い小説には滅多にお目にかかれないはずだ。
人に刃を向ける時は、よくよく考えてからの方がいい。振り上げたその切っ先は、いつか自分自身をもばっさりと傷つけることになるだろう。くるりくるりと回る観覧車に乗り、男と少女は出会う。不思議な逢瀬のタイムリミットは夜明けまで。男の覚悟を、少女はまだ何も知らない。何も伝えぬまま男がそっと育んできた愛情は、愛する人が危機に陥った時に初めて少女本人に届けられる。大切な存在を守りたいと願う心はあまりにもまっすぐで、その剥き出しの想いは邪魔するもの全てをなぎ払ってゆくのだ。彼にとって何よりも大事なものは、少女ただ一人。幼さゆえの愚かさも、無知ゆえの過ちも、彼が許しを与えることはない。全てを失う覚悟と一途な想いがあるのなら、きっとあなたも逆回りの観覧車に乗れるだろう。けれど忘れてはいけない。その想いが届かなければ、大切な相手は驕り高ぶり、同じように地獄の業火に焼かれることになるに違いない。