評価:★★★★★ 4.5
時は大正時代。東京にある東京帝国ホテルにて小説の授賞式が行われていた。そこの目玉は最年少文学賞。見事最年少文学賞を受賞した作品の一節にこのような記述がある。
「ある日、彼は思った。どんな試練がたたみかけてきても前を向くしかない。薔薇の運命に抗うと—」
これは大正という激動の時代を生き抜いた、若者たちの記憶。美しい薔薇には棘がある。薔薇に魅入られ荊に囚われた、若者たちの記憶。
話数:全8話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
時は大正。大正浪漫と呼ばれる程に忙しい時代。進む近代化、技術の発達、メディアの隆盛etc…社会がその姿をいくら変革しようとも、世界がどれだけ生き急ぐことを望もうとも、どれだけ世界が変わろうとも変わらないものは、若者が想い人に対して抱く高潔ともいえる……ある種の病。紅い薔薇は誰もが羨む存在であり、白い薔薇は誰からも蔑まれる存在。紅い薔薇には白い薔薇の苦悩がわからない。寄れば互いの荊で傷み、白の輪郭が霞んでいく。みたいな思わず固いレビューを書きたくなる本作。読書好きが高じて小説家を志望する、正直パッとしない主人公。『白薔薇』の呪縛にも似たコンプレックスを胸に抱くヒロイン。テーマがブレることなく一貫しているのでサクっと読めるのが嬉しい。なによりも尾を引くラストが堪らない。
周囲から期待され過剰だと押し潰されそうになる、蔑まれ自信をなくし自分を見失う。実際、具体的なレッテルをはられることで苦しむことは少なくないだろう。自分がそういうつもりでなくとも周囲は盲目だ。事実、相手には何も見えてはいないのだ。何も見えずともレッテルがあれば見たと認識できる。相手を知るには手頃なものだ。そんな苦しみも結局は他人からのものだ。見えずとも聴いて、触れ合おうとするものもいる。自身を見つめ直し、真に理解する人と出会い、自らが己を深く知ることができたなら、あなたは唯一本の道を歩んでいるだろう。