評価:★★★★★ 4.5
吸血鬼は血に宿る情報を次代に渡すことを目的とする種族。吸血鬼の血を得れば物語がいくらでも書ける――小説家が吸血鬼を狙うのはこのためだ。
高校生の少年、日野原結有《ひのはらゆう》は吸血鬼である姉・小羊《こよう》を小説家から隠すのに必死だった。しかし、とうとう小羊は小説家に見つかってしまう。
小説家たちは小羊の持つ特殊な血を狙って次々と襲いかかる。果たして結有は姉を守り切れるのか。
姉弟の美しい逃避行を描く吸血鬼譚にして姉ファンタジー。
話数:全28話
ジャンル:異能バトル
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:残酷な描写あり
吸血鬼と小説家、その血をめぐる物語。吸血鬼の血に宿るその力が、小説家にとってヒット作の源泉になるという設定に驚きましたが、次第にそれがメタ構造であると気づかされます。 ――人気の小説を書くためにその犠牲として狩られる吸血鬼。 物語におけるヒロイン小羊です。小説家である弟、結有は愛する姉が犠牲となるのを食い止めるため物語に立ち向かいます。 小羊を犠牲にしようと、大衆の望むものへと紡がれる「おおきなちから」。それは、作者の描きたい純粋な物語が、大衆にとって心地よいものへと変質へしていく様へと繋がります。しかし、真に己の描きたいもの――小羊への愛を貫こうとする結有は、大衆に語りかけ「おおきなちから」に挑みます。 小説を越え、世界中の争いに巻き込まれ犠牲となる人々。この「おおきなちから」を前に結有の編む方舟は、小羊を、犠牲となる人々を開放出来るのか、是非その結末をご覧ください。
この小説で書かれた「大きな物語に囚われる」に興味が湧いた。現代において崩壊した大きな物語に囚われるとは何か? 大きな物語とは18c末から20c半ばまでの政治・思想・経済で国民をまとめ上げるシステムの総称だ。だが、ポストモダンに入り大きな物語は崩壊した。私が考えるにそれは、ネグリ・ハート共著による「帝国」に出てきた消費の欲望のままに巨大化したグローバル経済を大きな物語=中心が崩壊した帝国=消費の帝国とし、そこから逃れられないことだ。名だたる人文学者はこの消費の帝国に挑んできたが現状が物語るように流れは止められない。現実は撥音を鳴らし、前進とも後退ともつかぬ異様な動きをする。ただこれは私の経験であり著者の求めた経験ではない。なぜなら、この小説の浮き上がらせた環境は紛れもなく我々の現実と地続きであり、私の人間としての生き方をしっかと問うてくるからだ。あと、小羊さんエロ可愛い。
血を用いて記憶を媒介する種族“吸血鬼”、人間の持つ記憶から異界の力を引き出す異能者“小説家”、さるカルト教団を巡って始まる彼らの戦いを、禁断の姉弟愛を絡めながら描く現代伝奇ものです。 この作品の魅力はやはり吸血鬼と小説家に関係する異能の設定にあると思います。記憶や情報から異なる世界に接して、その力を引き出す吸血鬼や小説家という設定は、小説を書いている人間であれば読んでいると自分まで特別な存在になったかのような気分になり、心が踊るというものです。 キャラクターはいずれも独特であり、だからこそなおのこと、もし自分がこの中に巻き込まれたら……と想像してドキドキすること間違い無し。 自分も作品を書いている! という人はぜひ一度読んでみてニヤニヤしてみるのはいかがでしょうか?