玉髄の涙

　これは、私達の居る場所とは別の場所、とある世界での悲しいお話である。

　その世界には、 一つの太陽と三つの月が照らす紺碧の大海原と陸地が一つだけ存在する。陸地はベガン大陸と呼ばれ、南部には山脈が東西に連なる。山脈の東側、霧に覆われ人を拒む地に桃源郷の如き村がある。村は伝説と童歌でしか語られない存在、亜人種カルセティアの住処である。ここにオーカという名の少し気短な少女が住んでいる。
　かつては人間と共存していたカルセティア。だが、カルセティアの女性は世界で最も希少な宝石、玉髄を生成する落涙を為すため人間からの迫害を受けた。故に総数が激減し、人間社会と隔絶した村を安住の地と定めた過去を持つ。オーカには母がいたが、オーカを出産直後鬼籍に入った。現在カルセティアの女性は、世界中でオーカ唯一人である。
　オーカは兄のようなポプラル、幼なじみのメイプルーフや父親のイチイバ、長老らと共に村で平穏無事に暮らしていた。
　そんなある日、一人の人間が遭難の末村に迷い込む。村がある国の人間、ヨグルド人だ。イチイバは助命しようと考え、「人間に関わるな」という村の掟を破り介護の末逃してしまう。
　そこからカルセティア達にとっての歯車が狂い始め、オーカ自身も抗っても抗いきれない運命に翻弄されることとなる。

　カルセティアの少女が紡ぐ、数奇な物語が幕を開ける。