ミセリコルディア――それは、近年、新たに発見された脳の神経細胞ニューロンの電気信号に反応する物質をもとにつくられた薬物である。
認知障害などの効果的な治療薬として期待されていた薬だったが、思わぬ副作用をもたらす。
それは、ひとの脳内の妄想をあたかも現実のように感じさせ、しかも本人だけではなく、他人とも共有可能にしてしまう、というものだった。治療薬として日の目を見ることのなかったミセリコルディアだったが、その名を『夢幻』と変え、違法薬物として闇社会で売りさばかれるようになる。ミセリコルディアがつくりだす妄想――呼称、アイテールを肴にパーティードラッグとして愉しむ以外にも、現実には不可能な欲望を叶えることも可能で、欲しがる人間はあとを絶たなかった。
だが、アイテールの影響は本人だけではなく他人にも及ぶ。脳はアイテールを現実と誤認する。そのため、それは現実と変わらない影響を人に与え、アイテールの武器によって人を実際に殺すことも可能だった。やがて、アイテールを悪用した犯罪が発生するようになる。
アイテール自体が人間に影響をおよぼすことは可能だが、人間が他人のアイテールに直接の影響をおよぼすことはできない。アイテールはアイテールによってのみ干渉が可能だ。そのため、アイテールを用いて抵抗する犯罪者を前に、捜査は難航を余儀なくされていた。
そんななか、アイテールを扱う特殊班が実験的に立ち上がる。
登場人物
大守十和 犬のアイテールを使う。違法薬物取締部特殊班
間宵慧 鋏のアイテールを使う。違法薬物取締部特殊班
リリーとルウ 違法薬物取締部特殊班の一員。アイテールを使うカタリスト。
鹿妻悠一朗 違法薬物取締部特殊班鑑定官。
椚光英 厚生労働省職員。局長。特殊班を立ち上げる。
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副作用:この薬を服用した人の脳内の妄想が、服用者およびその他の人間に、現実のように感ぜられる。 医療を大きく進歩させると期待された薬は、その副作用により開発が中断された。しかし、この薬はあるきっかけで闇社会の住人たちに目を付けられ、違法薬物として世に流通した。 世間では、副作用により具現化した妄想《アイテール》を使った犯罪行為が後を絶たなかった。アイテールに干渉できるものはアイテールのみ。警察は犯罪者たちに為す術がなかった。 そんな中、アイテールを扱うことができる特殊班が立ち上がった。特殊班は任務をこなす中で、どのように変化していくのか。 特殊班の人たちそれぞれが抱える想い。 なぜそのような想いを秘めるのか? 誰の想いが一番強いのか? 自らの置かれた環境に立ち向かう青年たちを描いたダーク・サイエンスフィクション。 心を大きく揺さぶる名作です。