評価:★★★★★ 4.5

彼にとっては十五年前の遠い日の記憶、彼女にとっては五百年生きた中のほんの一時の記憶。

それでも忘れないだろう。
彼は彼女への憎しみを、彼女は彼への償いを。

『絶対に……許さない……』

思い出すのは太陽に透ける綺麗な金糸の頭髪に、空のように澄んだ青の瞳を持つ心優しい少年のこと。

その彼が悲しみに涙を流し、憎しみに瞳を陰らせている姿を見た瞬間、彼女は己の罪を悟った。

(あぁ、私は彼から光を奪ってしまったんだ……)

彼を愛していたのに、絶望させることでしか救うことが出来ず、自分の無力さをこの日以上に呪ったことはないと思う。

『お前……お前だけは……!』

彼の瞳は、確かに闇に呑まれそうなほど陰っていた。
しかし、憎いが故に彼女を睨みつけるその瞳には、危うくも強い決意の光が見えた気がした。

(ならば、私を憎んだらいい)

それで彼が生きる意味を見いだせるというのなら、それでも構わないと皮肉な笑みを浮かべる。

──最も愛しい人へ、最も悪意を込めて。

『ふふっ、だって私は魔女。破壊することに快楽を覚えるの、憎みたいなら憎みなさい』

精一杯に悪役を演じたが、憎らしく笑えているのかが不安になる。
本当は優しくしたかった、憎まれたくなんかなかったのに、優しさは彼の心を壊してしまうから──。

(──さよなら、私の愛しい王子様。今日から私は、あなたに憎まれる破壊の魔女となりましょう)


話数:全6話
ジャンル:

登場人物
主人公属性
職業・種族
  • 未登録

時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録

その他要素
注意:全年齢対象