礼装の小箱 完結日:2017年11月12日 作者:九藤 朋 評価:★★★★☆ 4.1現代、時の止まったような家の中に生きる旧家の令嬢・華夜理(かより)の日常。彼女は過去の出来事により心に傷を負っていた。 彼女を見守り、暮らしを共にする従兄弟の晶(あきら)だが、次第に二人の関係は変化し始め――――――。 ノベラボさんにも掲載させていただいております。 話数:全82話 ジャンル: 登場人物 主人公属性 未登録 職業・種族 未登録 時代:未登録 舞台:未登録 雰囲気:未登録 展開:未登録 その他要素 令嬢 兄妹 和風 恋 着物 耽美 注意:全年齢対象 なろうで小説を読む
『礼装の小箱』このタイトルに相応しい空間で生きる令嬢「華夜理」とその従兄弟の「晶」。華夜理は幼少の頃のある経験で心に深い傷を負い、しかしそれが皮肉にもクラックビー玉のような煌めきを見せているのです。傷までもが光を反射し、近付く者を深みまで引き込んでしまう。悪意の無い魔性と言えるでしょう。そんな華夜理を晶は独り占めしたいと思うように。華夜理もまた晶を大切に想っているのは明白。従兄弟の枠など超えた感情なのは明白。それでいて容易には認められないのです。美しいクラックビー玉も割れてしまえば硝子片。危ういからこそ強くは迫れず、だけど若者特有の抑えきれない感情が入り乱れます。礼装の小箱は本当に時を止めているのか。目にする世界の多さ=成長ではありません。一見するとか弱い者の中に存在する強い生命力を感じられることかと思います。麗しい文章表現と共に是非お楽しみ頂きたいです。
例えば貴方の目の前に小ぶりの黒い重箱があるとする。重箱の外側は漆が塗られていて、蓋には金箔の蝶と赤い金魚が控えめに踊っている。そっと蓋を開けると、いくつかの菓子が一つずつ大切に収まっている。一つは桜を象った和三盆。一つは水槽の金魚をイメージした水菓子。一つは紫陽花色の練り切り。小ぶりの薯蕷饅頭は小豆を一粒一粒選び抜き、栗きんとんはきっと、重箱の装丁に似合うように岐阜・中津川産のものを使っている。……かなりわかりづらく表現したが、この物語の最大の特徴は、その場その作品その登場人物に似合うことばを「丹念に選び」、文章を紡ぐためにそのことばを「練りこみ」、そしてものがたりとして美しく「飾る」作者の美意識だ。隣に茶を置きながら、急がずに、ゆっくりと噛み締めるように読まれるとよろしい。そうすれば「丹念に練りこんだ日本語のうつくしさ」をより一層堪能できるはずだ。
表現方法等は他の方々が語られている為省略させていただきます。繰り返し何度か読ませて頂き、率直に感じた事としては主人公を取り巻くキャラクター達の作り込み方に感動を覚えました。タイトルにあります、本作の主人公である華夜理と晶、両名よりも記憶に残りやすいです。本作の嫌な人という位置づけにいる晶の母親。本サイトにおいては一般的にはやや手が抜かれがちな立ち位置になりかねないキャラクターに関してもしっかりと丁寧に画かれています。指すところは、主人公はより強く読者と共にいます。それを踏まえてこの書き込み方なのかもしれません。結果として『小説』その物の水準が高いところにあります。少し堅い小説。言葉としての小説、頭に思い浮かぶ小説。大人、それも女性には共感しやすい反面、本サイトの対象には少々難しいジャンル 大正、昭和の作風の中に今の時代の色がまざる純文学と呼べるのではないでしょうか?
宝石のようだ、と他の皆様がレビューに書いていることでわかっていただけるかと思いますが、この小説はとても美しい文章で綴られた切ない恋愛の物語です。さて、あまりの文章の美しさにそればかりを言いたくなってしまいますが、その他の部分も負けず劣らず素晴らしい!私はそこをご紹介したい。美しすぎる文章は良いのですがそれでは、どこか虚像じみて見える。精巧に作られていればいるほど、現実離れしてしまう……、これが普通ですよね。しかし、騙されたと思って一度読んでみてくださいな。なぜこの作品はそうでないのか、気になるはずですから。登場人物たちの感情が、細やかに、そしてしっかりとリアリティを持って伝わってくる。虚構なんて感じる暇もないほど、胸を刺す切なさを感じるはずですから。さあ、あなたも!過去の傷を背負った一人の女と、その方を支える一人の男の、超えてはならない禁忌の愛。どうぞご堪能あれ。
何も知らず白い箱を開いてみたら、綺麗な言葉という宝石が詰まっていたようなそんな感覚に陥りました。自分も趣味で物書きをしていますが、こんなにも綺麗な描写、言葉を選んで物語を紡ぐことは難しく思います。純文学作品は、小説家になろうではあまり見かけません。ですが、だからこそ、この作品は輝いてみえるんです。今まで読んできた小説の中でも特別な思いを浮かばせられる作品でした。何も知らない間は白い箱。開けてみれば宝箱。是非、読んでください!後悔はしないと思います!^^
言葉がきらりきらりと輝いていました。灰鼠、濃紺、漆黒、白銀、朱。読み進める毎に、流れ込んで来る色彩の数々。一文一語が驚く程の美麗さで綴られています。そんな文章が彩るのは、一人の危うげな少女の物語。過去に心の傷を負った彼女は、まるで時が止まったかの様な家に籠って日々を送ります。彼女を見守るのは従兄弟の少年。慈しみを以て彼女と接する彼ですが、その心情は徐々に変化して行き……。緻密な心理描写もまたこの作品の魅力の一つです。少女と少年の少々拗れた恋模様。そこに複雑に絡みついて来る周囲の人間達。そんな関係が織り成すストーリーからも目が離せません。まるで煌めく宝石箱を覗き込んでいる様な気分に浸れる作品。美しい小説に出会いたい方へ、是非お奨めの一作です。ご興味を持って下さった方々。もし宜しければ、どうぞこの小箱の世界をご覧下さい。
★〝儚い〟―そういう言葉がまさに似合うような大和撫子の華夜理、そして、彼女と同棲し献身的に彼女を守る晶、この2人のまるで宝石箱の中の古典文学のおとぎ話のような日々の情景から物語は始まる★読み始めて、この幸せな微温空間がずっと続くのでは? と読んでいて期待をさせられてしまう★だが、それはある2人の青年の登場で急展開する★客観性に優れた浅葱、世の中を斜めに構えた浅羽、正反対の個性の双子がもたらした〝外界〟の空気によって宝石箱の家が怒涛のように揺らぎ始める★華夜理の過去が紐解かれて行くにつれて、幸せの宝石箱は存在せず、堕すべきような悪意が外から、内から、心の中から、次々に現れる。そして彼女を苦しめる★この作品で素晴らしいのは華夜理を守ろうと集まる3人の青年だ。晶、浅葱、浅羽、個性も価値観も異なる彼らが悩み苦しみ時にはぶつかり合い華夜理と言う宝石を守ろうとする。その顛末は貴方の目で確かめるべきだ
二話目の冒頭に食事がでてきたのが狙ったのだとすればものすごい天才的な感覚ではないかと思える絶妙な描写でした。純文学、立場上触れる機会はありますがやはり今の娯楽として読むにはしんどい重さがあります。美しい文体を堪能できる一話から、ではこの文章を読み続けられるかと言われれば少ししんどさを感じるところで、日常の象徴である食事がでてくることで一気に小説が身近なものになります。そのまま登場人物二人の会話へと移行。ここでも美しい描写がありますが、ここで一話目の純文学らしい流麗な描写が生きてきます。二話目以降の雰囲気に、安心して浸ることができる。純文学でありながら、娯楽として読むための必要な要素をしっかりを持っている。非常にバランス感覚の取れた作品だと感じます。
決して食べ物や食材、食事をメインにしたお話ではない。というのを前提にした上で、お話には食事をするシーンが良く出てくるし、それらを時には細かく、具体的な名前まで出して描写している。登場人物たちが繰り広げる静かな闘争からすれば、そんな日常の一幕は取るに足らないのだけれど、しかしやはり、人間が生きていくに欠かせない「食べる」行為を通じて日常の根幹、リズムが成り立っているようにも思える。それで、鮮やかに、とても身近に彼らの普段を描き出すので、すると、温度が低くなったり、逆に高くなったりすると否応なく心を動かされる。全く、ご飯も喉を通らないような心情に打ちのめされる彼らに際し、こっちの食欲まで減衰するようで、するともう救いを求めて先へと読み進めなくてはならない。そんな、心地の良い作品です。
この美しい文章は間違いなく読み手を小説の世界に入り込ませます。心に闇を抱える華夜理、それを必死に支える晶。そこに深く関わってくる双子の従兄弟の浅葱と浅羽や晶の母、父。全ての登場人物が小説の中で其々の感情を持ってしっかりと生きています。時には悪い感情を持って…最大の見所は華夜理と晶の距離感だと思う。周りから見ればその感情は恋という感情で間違いないのだが、2人の中にはそれだけでは言い表せれない複雑な感情が入り混じる。この心情こそ純文学ならではというより、作者である九藤様の魅力である。ここを是非読んで感じてほしい。また私個人、純文学というジャンルは殆ど読んだ事がなかったのだがこの作品に出逢い今までの考えが変わった。そして字や言葉の持つ力を思い知った。難しい言葉も流れる様に。丁寧に使う事でこんなにも自然と頭に入ってくるのだと感動した。是非この作品の文章や世界に酔いしれて欲しい。