評価:★★★★☆ 4.3
どこまでも夜が続き、一向に朝が来ないという怪異に囚われた山里があった。里人たちが頭を痛める中、ひとりの侍が里を訪れる。
ヤトリと名乗った侍は、常夜の原因は鵺というアヤカシにあると云う。鵺とは食らった人間の皮を被り、すっかり他人に成り済ましてしまうアヤカシだった。
里に朝を呼び戻す為には、誰が鵺であるかを暴き、討伐しなければならない。鵺祓いの力を持つヤトリは、早速鵺探しに乗り出すが……。※秋月忍様主催『ミステリアスナイト企画』参加作品です。
話数:全10話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
謎は謎のままだからこそ、昏く尾を引いて夜に溶け、陽に解けてゆく。読んで字の如くではないかと思うかも知れない。しかし、その名を背負って陽の下を歩くことを許された者は、何を以て「陽の下を歩かずに済むことを」許されるのか。いつかそんな日は来るのだろうか。そんな疑問すら覚えずに旅を続ける身とは、どれほど悲しいことでしょう。鵺の哀しい物語を想いつつ、本文を追いつつ、鵺の鳴く声を幾度も聞いた気がして。泣き声を聞いた気がして。悲しみを食われる悲しみを感じてください。あなたが鵺でないのなら、きっと。
物語の舞台は、闇に覆われた光のないとある里山。不可思議な妖と山の主の存在を感じさせる民話のようなていをとりながら、物語は人間の人生についてただ静かに説いてゆく。悲しく思う心を捨て去ることができるならば、どこか身軽に生きることができるのかもしれない。あるいは悲しみにその身を溶かしてしまうことができるならば、心安らかにその生を終わらせることができるのかもしれない。だが果たしてそれで良いのかと、私たちは問われることになる。文字通り明けない夜はないと告げるこの物語の結末は、あまりにも鮮烈で、ひ弱な人間は目がくらみそうになる。内にこもり、外に出たばかりならなおさらだ。だが痛みを感じ、苦しいと嘆くその心こそが、人間が人間である証なのだ。多くを失い、涙が枯れるまで泣いたとしても、私たちの人生はただ続いて行く。がむしゃらに歩き続けたその先に、きっとあなたは美しい花を見つけるだろう。
“『鵺(ぬえ)』なる、ひとつの形無きモノ、いわば””禍ツ神””が人知れず立ち上がり、人間の業と共に、生と死の交差するひとときを荒れ狂い、変容していくその姿…凍て付くかのような虚無をのぞき込みつつ、ギリギリの処で、温かく赤い血の通う人間本来の美しくも危ういバランスを取っている…生々しい血の匂いをたたえながらもキンと冴えわたっているような雰囲気が、印象的です。一見して「日本昔話」風でありながら、神がまだ「(畏怖すべき)モノ」と呼ばれていた頃の、神さびた、いにしえの空気感を濃密にまとう物語です。そういう意味では、有り得たかも知れぬ「日本神話&民話」の中の、一エピソード…とも言えるかも知れません。”
鵺の存在によって密室と化した山里に、ヤトリと名乗る探偵――鵺祓いが現れる。これは和物ファンタジーであると同時に、本格サスペンス小説でもある。今宵もまた、鵺が哭く。導入部だけで、読者の心を鷲掴みならぬ”鵺掴み”してしまう圧倒的文体は一読に値する。闇は闇のまま盲で終わるのだろうか。はたまた瞼の開いたその先には……