稀な身体能力をもつ伊能亮一は現在三十四才。超伝導体の優秀な研究者である。英語力を買われて同所に配属された桜木陽子は、上司である伊能に恋をした。
しかし仕事以外には一切、他人の干渉を許さず、「神秘の男」と職場で称されている伊能は陽子を無視し、とりつくしまもなかった。陽子は同僚が囁く「伊能病」重症患者となったのである。
折から、永田町駅、有楽町線駅で電車の中でひとりの男の死体が発見された。ただちに赤坂署に捜査本部が設けられ、伊能旧知の佐野参事官の指揮のもと捜索が開始された。殺害された男の周囲には大勢の乗客がいたはずであり、その目撃者を求めるが予想に反し目撃者は集まらない。それどころかその現場、先頭車両の中央付近にいたという人間が現れない。
警察への不審か。捜査本部は悩み捜査は難航する。
しかし榊女性刑事の「目撃者はいなかった、ないしは車両に入れなかったからなのではないでしょうか」という発言が捜査転換のきっかけとなった。
異なった視点からの情報を集めた結果、当時、その周囲には入りがたい「結界」があったことが判明した。現場のまわりを詰めていた六、七十人がすべてが共犯であれば犯罪は可能である。
殺害された鎌田は弁護士。その長年の友人に劇団アルテナを統べる人気俳優の山崎がいた。ふたりは同郷で、かつて高校時代にふたりはあるトラブルで対立したことがあった。
佐野の捜査本部が過去に遡って調査した結果、山崎の妹(当時高校一年)が夜の河原で何者かに殺害され、犯人が検挙されないままで時効となっていたことが判明した。
捜査本部はふたつの事件の類似性に着目した。しかし決定的な動機がみつからない上に、山崎には、その時刻、公演を間近に控えた総稽古の舞台に関わっており、一歩も稽古場の外には出ていないという鉄壁のアリバイがあった。
伊能は今度もまた、ふとしたことから捜査に大きな手掛かりを提供することになる。その神秘な男、伊能への慕情を押さえられないプリンセス・チェリー陽子。そのひたむきな求愛に伊能の心も揺れる。
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