評価:★★★★★ 4.5
1985年の夏。
なにをやってもどんくさかった15歳のわたし、成沢夏美は、体育祭で三人四脚に推薦されて困っていた。
だれも一緒にやってくれる人など現れない。黒板の空白を前に青くなるわたしを救ってくれたのは、「俺。やっても良いよ」教室のうしろからあがった、おとこの子の声だった。成績は良いけど、破壊的に運動の苦手な水島くん。
天然茶色の長髪で、ビートルズを好む変わり者の木瀬くん。三人で夏休みの秘密特訓がはじまった。
バレーボール大会。文化祭。変わり者ふたりと友人になり、地味女だったわたしが少しずつ前向きになっていく。毎日が楽しかったのに、突然木瀬くんが姿を消した。親から木瀬くんには関わるなと言われ、反発したわたしは夜の街へ飛び出して…… うしろを着いてくる足音に気がついた。そこに居たのは人相の悪い見知らぬ男であった。いつもの暗いシュール展開はありません。
ファンタジー要素なしの青春小説です。無断転載禁止。無断複製禁止。
話数:全13話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:近代
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
『あまされもの』そう言ってクラスメイトの中であぶれた三人は、でも三人だから最強だった。舞台は1985年の中学時代と、現代とを行き来する。今とは違う時代に架けられた橋は、違和感無く私たちをあの時代へと連れ去ってくれる。ただ強いだけがヒーローじゃなく友達の、仲間の為には踏ん張れる頑張れる……それはとてもとても魅力的では無いでしょうか。胸に確かな熱さを握り締め、彼女ら三人は行く。あまされものという名前を、誇らしげに持ちながら、大人になる。きっとみんな大人になる。その時に、この熱さをこの熱さを私たちは忘れてはいけないのだと思う。想像してみて。そんな姿を。
主人公は女子中学生一名と男子中学生二名なんて言ったら、大抵の人は恋愛ものを想像するだろう。しかもきっと彼らは三角関係だ。けれどちょっと待って欲しい。この作品の本当の主役は中学時代を振り返る、もう良い年をした男女なのだ。若くはないからこそ、どこか甘く、そして若干ほろ苦くあの頃を思い出す。悩み、苦しみ、大人やさまざまな理不尽な出来事に体当たりしたあの懐かしい日々。学生を卒業してしまった読者ならば、読み進めるごとに自分を重ねてしまうのではないだろうか。ここには、激しい恋の鞘当てはない。今時の同窓会のように、焼けぼっくいに火がつくなんてこともない。例え空白の時間があったとしても、友情が消えてしまうことは決してないのだ。彼らの、そして私たちの青春は終わらない。例え年を取り、結婚し、子どもを育もうともそれは続いて行く。さあ前を向け。歩き始めよう。ついでに歌でも口ずさめばなお幸先がいい。
この作者は上手い上手いと思ってましたが、今回は拍手を送りたくなりましたよ。青春小説と言いながら、この話は中年の男女の再会から始まります。キラキラしい男前は出てきません。バインボインな美女も出てきません。等身大のあなたと私がこのお話の中にいるのです。日常の、今ここに存在しているのです。15歳のあの日「あまされものクラブ」の一員だったあの日からこの3人の絆は始まりました。皆さんもぜひこのクラブに加入してみてください。心がじんわりとして、眼がグッと未来を見据えられるようになるはずです。