評価:★★★★☆ 4.1
ハルトのイエは一つの生物だ。
ぱっと見はその辺りにある普通の一軒家と変わりない形をしているが、本当は生物なのだ。
昔からそうだったわけではない。
いつの間にか、徐々に、気がつけばそうだった、というふうにイエは生物になっていた。※大変不快な描写があります。ご注意ください。
にけ作:なろう、エブリスタ連載
掌編集「内側を旅しても(stray thoughts.)」http://ncode.syosetu.com/n9270dz/ より独立
話数:全4話
ジャンル:
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
その他要素
ここは何かがおかしい。それなのに、一度中に入ってしまえば違和感を感じないのは何故だろう。それはあまりに日常と化していて、怖さなどどこにも見つけられない。当然のように、わたしたちはすべてを受け入れる。ひとつに取り込まれることに恐れを覚えず、むしろ飲み込まれることさえよしとしてしまう。ずぶずぶと沈み混む底無し沼は、まるで母親の胎内のように生暖かい。もういっそなにも考えたくはない。消えた記憶。失われた家族。無邪気な少年が帰るのはなんの変哲もない家。出迎えるのはごく普通の人々。けれどそれが本当に幸せなのかは誰にもわからない。廻る廻る生命の輪。私たちは自分がそれと気がつかぬうちに、大事な部分を喰われてしまっているのかもしれない。きっと最後のひと欠片がなくなる頃になってようやく、小さな悲鳴をあげるのだ。もちろんその声は、きっと誰にも届かない。
一読して、これは確かにホラーである。理屈では語り得ない存在。ぞくぞくする展開。謎。悲劇。それなのに、私がこれを読んで真っ先に感じたのは、不思議なデジャヴュ感だった。私は、このイエを知っている。私を溶かすイエ。私の養分を吸い取られる感覚。そして、私を排泄する感覚。主人公・ハルトと同じように、それは私の「なんということでもない日常」だった深層心理に眠る、自分自身を育んできた家がイエと重なる時、それは、ああ怖かった、では終わらない螺旋状の恐怖を呼び起こす。この小説を読み終えた時、あなたの家にも、この不可思議なイエが現れるかもしれない。