評価:★★★★☆ 4.3
恋愛小説は好きだけど、どうして好きなのかは説明しにくい。それが甘い幻想だから気持ちがいい、というわけでは必ずしもないし、だとしたら不倫小説なんて読むわけがない。他人の不幸は蜜の味? そんなことをマジメに考えるときりがないのだが、ある日後輩がやってきてから妙にそんなことを考えるようになった。見ず知らずのへんなやつを相手にしているうちに、ぼく自身、恋愛小説の読み方が変わってしまうことに気がついた。
話数:全17話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
悩める人に読んでほしい。気持ちが楽になるはずだ。読んでいると感情が沸き起こる。言葉が掘り起こしていくのだ。頬の熱は隠しようもなくなり、うめき声すら漏れている。恋だの愛だのを、真面目くさって人と話すとき、避けようもなく浮かび上がる、自分の経験への照れや、悲しみ。思い出に浸っている時や、恋愛小説を読んでいる自分の姿を想像した時の恥ずかしさと、その感情を抱かせたエピソードへの愛情も、連鎖していく。上記の感情以外も湧くかもしれないし湧かないかもしれない。けどその反応どれもこれもが、自分自身に根ざしている。それを恥ずかしがらせ否定させる言葉はここになく、むしろ寄り添い肩に手を置いてくれるような言葉たちが綴られている。文の中にぼくは自らの姿を重ねてしまい、それと提示される言葉との齟齬に悶え、一致に笑った。そして気づいたら、自分を少し認められるようになっていた。きっと、あなたも。
極端に背伸びをしたわけでもなければ、美化したわけでもない。とても等身大の、ふと思い当たるところがあるような、そんな物語である。えてして、過美に装飾されていたり、面白がらせようとコメディに走ってしまいがちな若者の恋愛を、鬱屈しすぎるでもなく描いている。見えている地雷を踏みに言ってしまう若さだったり、妙な期待感だったり、ふと訪れる理不尽だったり。ぼくはこの作者の書いた中では、最高傑作だと思う。