評価:★★★★★ 4.5
「あなたが残るなら、果穂子は百年も千年も、永遠にまでいきませう──」
司書として働く六花はある日図書館の大机の裏にびっしりと書かれている日記を発見する。その日記の秘密を紐解くとき、ある少女の一生と、命を賭けた美しい仕掛けが動き出す。※第一話の挿絵は九藤 朋さんよりいただきました。
話数:全21話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:大正
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
金魚。作中の言を借りれば、さまざまな金魚の居る池は、絵具のパレットだという。金魚は鯉に似るが鯉より小さく、そういう性質も含めて美しいという。真実だ。 さて、人と関わるのが苦手な司書の六花は、親に放任される小学生の果音と会い、偶然に日記を見つける。大正時代の娘、果穂子の日記だ。六花たちがその謎を追うのが、この物語の半面だ。 金魚の美しさの普遍に寄せ、物語は二つの時代を交互に進む。大正は、華族、妾、書生、女中、写真機の世界だ。二つの時代の質感は、十分なコントラストで描かれる。そして、大正世界で苦しみながらも永遠を求めた果穂子の生――その生は、切ない。六花と果音は、果穂子が残した日記を通じてその生に触れ、愛の飢えに関する三人の小さな共通項は、しかし少しずつ異なっていく。 人はたいてい百年と保たずに死ぬ。しかし、百年の時を超えて人を揺するものが、ある。私はそれをこの物語に見た。
静かな文体である。まるで雨のように、静かに、こころの内を語る物語は、ゆっくりとした音楽を奏でるように、少しずつ、少しずつ、遠い昔に亡くなった果穂子と、そしてそのこころを追い続ける、現代に生きる六花の想いをとき明かしていく。まるで池の中から、光さす水面の向こうを見るように、ゆらゆらとゆれて、少しずつその輪郭が形作られる。誤解を恐れずに言うならば、この物語は、果穂子が、そして六花が、自分の中の、自分でもわからないものを探し、そして残していく物語だ。そして、この物語は、とても、ただひたすらに美しくて、作者様の仕掛けに、ただ息を吞むばかり、あまりの素晴らしさに、一人、呆然と立ち尽くす自分に気付く。でも、読み終えた後、とても素敵な、一握りの暖かな何かが、読者の胸に残る。必ず読むべき、傑作です。
この作品は主人公・六花(りっか)と果穂子、時を隔てた女性二人の物語である。図書館に勤める六花はある日、ふとしたきっかけで机の裏に書かれた果穂子の手記に気づく。果穂子は遠い昔、金魚邸と呼ばれる邸に住む少女だった。彼女にまつわる謎。迫る病の影や不明の名前。六花視点と果穂子視点で紡がれる物語。殊に金魚が彼女たちを繋ぐ役割を果たしているようで、非常に効果的である。高い筆力、描写力。大いに読まれ、評価されて欲しい作品である。金魚幻想に酔いしれて、きっとあなたも時を忘れる。