評価:★★★★☆ 4.2
気がついたらジェットステルス戦闘機だった。
日本に暮らす女子高生、永瀬恵(ながせ めぐみ)は、突如自分が最新鋭のステルス戦闘機になっていることに気付く。空気を切裂く翼、力強いエンジンの振動――彼女は全身完膚なきまでに戦闘機となっていた。夢かな、などと思いつつノリと勢いで突然機関砲などぶっ放して四方八方から叱られる恵だったが……一方で、最新鋭戦闘機・F‐37ヘイルストーム搭載型高度戦闘判断航空制御ニューラルAI・カムイは、突如自らが女子高生になっていることに愕然としていた。ひどく脆く有機的な肉体に何故かAIであるはずの自分が宿っていることに戸惑うカムイ。
やがて、二人はお互いの身体が、意識が、入れ替わっているのではないかと気がつく。古今の有名作品よろしく入れ替わり現象に翻弄される二人は、やがてひどくまずい事実に気付く。既に実戦投入されつつある戦闘機と女子高生の入れ替わり――これは、非常に、とんでもなく、まずい。
* 第二回書き出し祭り参加作(同タイトル)からの連載作品となります。
話数:全20話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
女子高生とジェットステルス戦闘機(のAI)が入れ替わってしまうというお話。人間ですらないものと入れ替わってしまうという設定が斬新です。平和の象徴ともいえる日本の女子高生・永瀬恵は、戦闘機の中に入って実際の戦場を体感し、恐怖します。一方、女子高生と入れ替わってしまった戦闘機・カムイも、よく分からないなりに女子高生をやろうと努力します。中盤で、意識のあとに行動があるのではなく、行動のあとに意識がある。つまり意識とは後付けであり、自由意志は本来存在しないのではないか、という話が出てきます。選択に意味はないかもしれない。けれど価値はある。ラストの恵、そしてカムイの選択はそんな印象的なメッセージを含んでいます。カムイに救われた恵、恵に学んだカムイ。人間と人工知能の絆の在り方の一つがここに描かれているような気がします。
キャッチ―で奇矯なタイトルに、ヒットした某アニメ映画を思わせる初期のシチュエーション。これは、と期待して読み始めた読者は、やがてとてつもない地平に連れていかれる。女子高生の生活とAI戦闘機の作戦行動が胡蝶の夢のごとく交差して描かれる構成に唸り、超音速の目まぐるしい戦闘を追うカメラの筆致に肝をつぶす快感を味わう。ミリタリーをテーマに扱えど敵を安易に実在の国や民族に設定しない、節度ある態度が、この作品の品位を高めていることは特に述べておきたい。人の意識とは物語を紡ぐ機能なのだというテーゼが、小説の中でなされることがもう福音以外の何物でもない。そして、その福音を受け取るのが戦闘機のAIであるということ、彼が最後に出した結論。結末はひどくビターだが優しさに満ち、SFが描きうる最良の回答が示される。作者の今後の活躍に期待が止まらない。みなさんもぜひこの素晴らしい作品を味わってほしい。