プラリネ 完結日:2018年11月13日 作者:九藤 朋 評価:★★★★☆ 4.3十九世紀ロシア。貴族令嬢であるイリーナは吸血鬼の末裔。彼女は従兄弟であるセルゲイの血を混ぜた菓子・プラリネを糧に生きていた。 想いを寄せ合う二人を待ちうける運命とは。 話数:全6話 ジャンル: 登場人物 主人公属性 未登録 職業・種族 未登録 時代:未登録 舞台:未登録 雰囲気:未登録 展開:未登録 その他要素 ロシア 注意:R15 なろうで小説を読む
小説家になろう界隈にある作品のほとんどは、ライト文芸と識別出来るテンポと展開、軽快さと設定キャッチーさを売りにした作品が席感しており、勿論中には文学的要素を取り込まれている作品も多いそこで今回は、徹底した『純文学』作品を一つ紹介させていただきたい『プラリネ』と題された本作品の舞台は、十九世紀の帝国ロシア激動と呼ばれた時代の隅の隅に確かに在った、美しき吸血鬼の末裔イリーナ。彼女に纏わる一つのお伽噺。この作品はシナリオの冴えも見事だが、何より特筆すべきは『文章』である至る随所に妥協を許さなかった事が窺えるほどに、この作品の文章力は凄まじい表現力と比喩、単語一つだけとってもこだわりを感じる言葉選び、記述センスそして何より、読みやすさを伴っているということ『純文学』に興味があっても敷居が高いそう足踏みしている方に是非届けたいプロフェッショナルをご覧あれ
それは、純粋な想いが発端となる狂気の音色。歯車は軋む、時を奏でながら、ゆっくりと。抗えない血の流れを受けつつも、社交界に立ち、真摯に生きる一族に、集う歪みは容赦なく襲いかかる。プラリネの甘美な余韻が消えてゆくように、儚さは世界に広がって。相容れぬものと相容れるもの、世の不条理と世の条理は、欺きの呪によりていびつに交差し──歯車に、爪痕を刻む。抗えないものは人の集団心理か、人の性か。今はただ、行方の知れぬ彼らが、安息の地に至ったことを願うばかりだ。
吸血鬼の末裔イリーナ。絶世の美女である彼女が生きる為には血が必要だった。誰の血でも良いというわけではなく、血にも相性がある。そして皮肉なことにその適合者は想いを寄せる従兄弟セルゲイだった……。 愛するものから血をもらわなければいけない宿命。自分のもとに縛り付け、自由を奪っているのではないかという葛藤。 イリーナからしたらその血の繋がりは尊いものであると同時に一種の呪いのようなものだったのでないでしょうか。 そして愛するものへ血を捧げる宿命。自分の血を得ることによって、愛するイリーナが生命力に溢れていく。他の誰でもない自分にしかできないこと。 セルゲイからしたらその血の繋がりはただひたすらに尊いものだったのではないでしょうか。 この2人の想いやその周りの人々の想い。そしてそれを取り巻く環境。そういったものがロシアという異国の風に包まれたこの作品自体がまさしくプラリネ。
そのプラリネは、ただの菓子ではない。主人公には、プラリネに混ぜられた物が生きるために必要だった。それは、吸血鬼の末裔たる彼女に必要なものでもあるが、恋する相手を縛る理由で絆だった。19世紀のロシアという激動の時代を舞台に、幼いながらもそれぞれの純粋さや醜さが交差して紡がれる切なくも美しい物語。それはプラリネの甘みに潜むほろ苦さにも似て……
お菓子作りは手間暇がかかる。適当、目分量はならず、正確に材料を計り、順序よく混ぜ込み、加熱、或いは冷却していかなければならない。 そのお菓子、プラリネには隠されたレシピがあります。 物語はお菓子作りと同じように、作者の繊細な心づくしに充ちています。まずは手に取ってみてください。そして味わってください。瑞々しさ、甘さ、人生の苦さがあります。 異端は何故異端と呼ばれるのでしょう? 世の中の習俗、法律に従っていても邪まに染まる者がいます。少数だからこそ純粋さを保つ少女と少年がいます。 純粋で、自身たちが異端と自覚しているからこそ願う平穏と永劫の夢。世俗の常識にとらわれ、不自由になっているのは異端ではない側であるのかも知れません。 吸血鬼のホラー物となるとイギリスの『ドラキュラ』が元祖のように言われますが、元々東欧の伝承が伝わったもの。ロシアもその雰囲気が似合っています。
十九世紀、帝政ロシア。貴族令嬢として生まれたイリーナは、実は吸血鬼の末裔だったのです。彼女が生きるためには血が必要であり、彼女の摂取する血の適合者は従兄弟セルゲイのものでした。セルゲイは大事なイリーナのために積極的に血を捧げます。イリーナも彼の血の含まれたプラリネを日々享受していました。しかし、そんなある日……。見事な筆力で描き出される世界は、まるで読者を当時のロシアの地に誘うかのようです。正直、圧巻の一言に尽きる描写力です。作者の方でも重厚な純文学を書きたいという方は、是非参考に読んでみて下さると良いのではと思います。さて、現在物語はクライマックス。イリーナとセルゲイの関係は一体どうなってしまうのか。またその結末は……。ついに今日完結とのことです。この機会に、皆様もこの素晴らしい物語を読み始められたら如何でしょうか。