ファスナーなんか付いていない

たくさんの要素を詰め込んだお腹いっぱい満足、満足、大満足なプチファンタジー。恋あり嫉妬あり、友情あり裏切りあり、謎あり冒険あり。主人公がいっぱいいっぱい悩み抜く先には素敵なラストが待ち構えています。どうぞこの物語の世界に足を踏み入れてみてください。主人公の名前はコハル。実は、神様にお願いして人間にしてもらった元犬。素性を隠して学校生活をエンジョイしようと高校に通い始めます。順風満帆だったはずの学校生活。ところがその一方で、街では不可思議な怪異が起こり始め、どうやらその原因が人間に化けた元動物にあるらしいという噂まで立ち始め……元動物たちは、果たして人間なのか、人間ではないのか。愚かな我々人間が陥りやすい「異質を排除する」という行動心理に翻弄されるコハルたち元動物。それでも人々のために立ち上がる元動物たちの勇気と行動に、私たちは必ずや涙する！

主人公は、大きな秘密を抱えて生きています。その設定ももちろん、独自性の強いものです。しかし、その上で国家単位の大きな事件が起きます。最初は、魅力的な登場人物達に引っ張られる形で読ませる確かな筆力にも脱帽でした。やがて、作者が本当に語りたいこと。この秘密を抱えた主人公でなければ気付かず、主張できなかったであろう「ファスナーなんか付いていない」という普遍的なテーマに辿り着きます。その時私は、ディスプレイが涙で滲んで見えませんでした。主人公が秘密を告白する時、どれだけの勇気が必要だったろう。そして秘密を共有する時明日から生きていく勇気を貰った気が私はしました。ヒューマンドラマの名に恥じない素晴らしい物語！ぜひご一読下さい。