評価:★★★★☆ 3.9
舞台は〈神々の箱庭〉と呼ばれる迷宮を中心に発展した学院都市、チチェリット。
異教徒狩りを行う宗教都市イスカリオンに唯一対抗しうる勢力であり、『怪しげな魔術』と貶められてきた技を『星沁術式』という科学に発展させた、知力を武器とする街である。その街に、ひとりの少女が流れ着いた。金髪金眼、乞食のような身なり、その名は『イリス』。
社会的弱者にしかなり得ないはずの少女、その正体が明かされる時──イウロ帝国の歴史に、新たな一歩が記される。宗教と科学。去り逝く者と奪う者。『呪い』と共に、残される者。
世界を覆いつくす不条理に翻弄されながら、それでも少女は歩き出す。
◇◇◇
完結しましたぁあ!!!!
続編は別サイトで構成ねるねる中。
話数:全45話
ジャンル:アドベンチャー エピック・ファンタジー
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
『夢と現の境界迷宮』シリーズ始まりの主人公は、少女イリス。12歳という未成熟さと、そこにアンバランスな『せいしん』を有し、本作はその危うい存在が捉える世界観を紡いでいく。 『せいしん』とは精神であり作中のキーワードの一つ星沁。 イリスは、過去の経験から戦士としての冷たく鋭い精神と、類い希なる強力な星沁を備えており、それがこの物語において大人達を動かしあるいは翻弄されていく。 彼女たちを取り巻く様々な陣営の大人達と、世界が抱える人種的差別と宗教的不条理。それら要素が学院都市たる箱庭の街にひしめき合って、世界全体の縮図となっている。 そこへ落とされた一人の因子こそ、妖と人の狭間にあるイリスだ。紫苑という友との邂逅は、彼女にどんな『絆の物語』を彩らせるのか? そして、この物語の先に、連綿と続く星沁の煌めきがある。 さあ、迷宮へ潜ろうか……!
それは、煌びやかな額縁に彩られた、とてもとても大きな絵画の、ほんの一部分……。そんな表現がぴったりなこの物語は、2人の少女……勝気で男まさりなイリスと内気でちょっぴり泣き虫な紫苑の(ある意味)劇的な出会いから始まります。見た目も性格も対照的な二人。それでも、それだからこそ、二人は共に手を取り合って穏やかな日々を過ごしていきます。暖かな日常に挿し色を加えるように周りの人物たちは皆個性的で、そんな人々に見守られながら二人は可能性ある『未来』を夢見て過ごしていくのでした。……けれども少しずつ雲行きが怪しくなってゆく場面展開に、もう少し、もう少しと読み進める手が止められないでしょう。初めにも言った通り、この物語は壮大な物語のほんの一欠片を垣間見ただけ。この先少しずつ明らかになっていく新たな物語が全て繋がっていき、全てが紐解かれたその時……私達は、いったいどのような絵画を鑑賞できるのでしょうね?
迷宮(物理)ももちろんあるのですが、僕がこの作品を読んでいて思うのは、主人公である少女の持つ感情や迷いの部分も、迷宮と呼んでも良いのかもしれない、ということです。人に寄り付かない野生動物のような雰囲気のイリスちゃん(見た目もボロボロ)と、その見た目にも怖気づかず、ほんわりと包み込むような紫苑(シオン)ちゃん。ちょっとした事故で出会ったふたりは、お互い全然違う性格でありながら、徐々に交流を深めていきます。ですが、イリスちゃんには実はとても大きな秘密があり、それがあるがゆえに、ふたりが一直線に通じ合うのはなかなか難しい。素直に気持ちに従ってしまうと、それが逆に相手を巻き込んで危険な目に合わせてしまう。その迷う心がまるで迷宮のようなのです。彼女らが、手をとりあって迷宮を抜け出して笑い合える日が訪れますように。
最初の数行読んだだけでこの小説面白い! と直感的に察してしまいました。この小説は身分の差というそれなりに重たい内容を扱っています。しかし、なぜかシリアスになりすぎて読みにくくなることもなく、一定のテンポを保ちながら小説の明るさも保ち続けているのです。なろう小説にしては結構珍しいタイプですよね。おそらくその秘訣は明るい主人公の性格と豊富なキャラクター設定にあるのでしょう。この小説に登場する登場人物はどれも人間味があるというか、読んでいてとても親近感が持てるんですよね。管理人と考え方が似ているからかもしれませんが、いずれにせよ作者様のメッセージ性が高くなければキャラクターたちがこれだけ生き生き動き回ることもないでしょう。ただ、少し風景描写が少ないので読者的にはわかりづらいところが多いかもしれません。