評価:★★★★☆ 4
唯一の肉親である母を失い、路頭に迷うしかないというところで、わたしはマオという探偵に拾われた。世の中の右も左もわからない、ただの十七の小娘にすぎないわたしのことを、彼は助手として雇い入れてくれた。
わたしはマオに懐いた。誰より優れた彼の頭脳、思慮深さは尊敬の対象となり得たし、誰より秀でた彼の美徳と美的感覚には思慕の念を抱かざるを得なかった。つまるところ、彼の明晰さと優しさは、わたしのお気に入りになったのである。
彼のそばにいられればいい。彼さえそばにいてくれればいい。
でも、そんなささやかな思いに満ちた日々は唐突に終わりを告げる。
マオが目の前からいなくなった。理由はわかっている。わたしの左の頬、そして背中に、一生消えない傷を負わせた男をゆるすことができず、そのあとを追いかける格好で、彼は街を出たのだ。
一年間、探した。だけど、見付けることはできなかった。
つらかった。
キツかった。
絶望した。だけど、再会を諦めようとは思わなかった。
マオの家業を継ぎつつ、彼の帰還を待つことを心に決めた。この街、開花路(カイホーロ)にいくつもある細い道、胡同(フートン)。
とある胡同で折れ、とある狭い路地に入って少し進んだところにわたしの仕事場はある。その名も『ガブリエルソン探偵事務所』という。
※『超Q探偵』の続編。
話数:全155話
ジャンル:探偵小説
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
「超Q探偵」の続編である本作「スカーフェイス・メイヤ」は各章で起こる事件を解決して進行していくハードボイルドである。それだけでなく、優れたヒューマンドラマでもある。胡同という街に住む人々が生き生きと描かれ、主人公の探偵メイヤとの交流が様々に描かれる。やりきれない結末、救いようのない犯人、ときに残酷な現実も人々の生活の中には存在する。前作では、そういった出来事に泣くしかなかったメイヤもタフで素敵な女性に成長し、時には凄腕の殺し屋とやりやうようにもなる。彼女は圧倒的な母性と優しさを持っている様に感じる。とても魅力的な主人公だ。傷を負って人は生きている。どんなに痛みを抱えていても生きていればこそ。それは人生の素晴らしさかもしれない。そんなことを感じさせてくれる、本作はドラマティックハードボイルド!です。邂逅を果たした二つの物語の結末を是非見届けて下さい。
とある街の片隅、ひとつの胡同を折れ曲がった先にそれはある。 「ガブリエルソン探偵事務所」。 独り取り仕切る、若き女探偵メイヤ。 彼女の左頬と背中には、決して消えない傷痕がある。過去を背負い、過去を待ち続けるための、鮮烈なアイデンティティーとして。 そして今日も、ハードでタフな依頼を彼女は受け続ける。 ヤクザ絡みのボディーガードから、クスリ、殺人、家庭内事情、果ては爆弾魔まで。 達観したその目には、まるで各々の人生に翻弄されているそれら人々が、一律同じニンゲンに映っているのかも知れない。 硬質で緻密な文体と、洒脱な会話で読ませる、人間群像劇。 それは「超Q」との邂逅を匂わせつつ、いまなお淡々と進んでいくのであります…… ハードボイルドを、貴方に。