評価:★★★★☆ 4.1
『紅蓮の魔術師』であるジャネットは、追い詰められて、帝王ザネスの権力の象徴である『聖なる炎』を操ろうとしたがかなわず、業火の中、自害した……はずだった。
しかし、目を覚ますと、反乱軍の長、銀龍と戦って、大けがをした半年前に時が戻っていた。
そこに現れたハリス皇子に、ジャネットは、反乱軍との内通を疑われる……。
死に向かう未来は、果たして、変えられるのか? 帝王に囚われた父は救えるのか?
そして、ハリスの本心は?肥前文俊先生企画<書き出し祭り>参加作品。大幅に加筆改稿しております。
※この作品は、なろう、カクヨムの連載です。
©秋月忍(2018/2/20)
※ 2018/6/26 完結しました。ありがとうございました。
話数:全27話
ジャンル:タイムトラベル
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:じれじれ
展開:未登録
『紅蓮の魔術師』ジャネット炎に愛された彼女は炎に焼かれる。父を助けたいが為に無理を通して奔走した人生が終わった。筈だった。しかし目を覚ますと、半年前に戻っていた。焼かれた記憶を残したまま。二周目の人生を、未来を知ったが為に少しずつ変えて歩むジャネット。自分が死ぬ事には変わりはない。せめて父だけでも、先の人生では死なせてしまった道をどうにかして生きる道に変えたい。父を救う為に利用しながらも、淡い気持ちを持っていたハリス皇子に裏切られた一周目。その結果を知りながら二周目を歩くジャネットが切なく、いずれ死ぬ事になるという想いから少しずつ変わっていく言動に、皇子もそして周辺の人々も変化してゆきます。その変化の行き先を見届けた時、あなたはきっと、また読み返したくなる。一度読みではなく、二度も三度も読みたくなる物語。ぜひあなたのお手元に。
信頼していた人に裏切られる。愛していたはずの人に蔑ろにされる。それはどれほどの痛みなのでしょう。心を凍らせるように冷たい憎しみだけが残るのでしょうか。世界を焼き尽くすような熱い怒りだけが残るのでしょうか。憎み、恨み言を吐きながら、ただすべてを呪うのでしょうか。それとも……愛する人の幸せを、未来を祈るのでしょうか。父を人質にとられた美しい魔術師ジャネットは、救出のために皇子の婚約者候補に名乗りをあげます。冷遇され、愛されることもなく炎に焼かれて死んだ彼女は、不思議なことに半年前に舞い戻るのです。自分の死は免れぬことと諦めながら、それでも父を救うために闘う彼女。自分に嘘をつくことをやめた彼女は、不器用で傷つきやすい心を他人にも見せていきます。その結果、少しずつ変化していく周囲との関係。果たして彼女は父を救うことはできるのでしょうか。じれじれとした皇子との恋にも注目です。
戻ってきた──半年前に。業火に焼かれたはずのジャネットの体に、火傷はなく。死ぬまでの未来が、鮮明に思い出される。皇子ハリスに取り入り、父を救おうとし──そして全て失敗に終わった事を。全てが空回りだった事に、どうして気付かなかったのか。彼女は変わる。未来が、その脳に焼き付いているのだから。婚約者ハリスの目には、本当に人が変わったように映っていたのかもしれない。「お前の婚約者は、俺だろう?」見え隠れする、ハリスの心。そこに愛はあるのか。心は、あるのか──帝王ザネスの暴虐。虎視眈々と何かを狙う皇子ハリス。父を救うべく、駆け回るジャネット。国の象徴である『聖なる炎』は、なくてはならないもので。故に帝王ザネスにしか扱えぬそれは、暴虐の元となる。聖なる炎に頼らぬ国造りに必要なのは、父の研究なのだ。様々な思惑が入り乱れる中──物語はこれより、鳴動する。
紅蓮の魔術師は死んだ。【聖なる炎】に焼き払われる、その寸前に。自らの手で。その生涯に終わりを告げたのだ。彼女は悔いた。己の軌跡を。父親の死。帝王の謀略。皇子の裏切り……。生前の努力が実を結ぶことはなく、彼女の期待は何ひとつ叶わないまま。物語は終焉を迎える――――はずだった。◇◇◇この物語は【愛】と【哀】が織り成す、壮大かつ重厚な長編ファンタジーですね♪「紅蓮の魔術師」の異名を持つ主人公、ジャネットを中心とする登場人物たちの【政治的な駆け引き】は言うに及ばず、暗喩的な【恋愛模様】も完成度が……高すぎる!ひと癖もふた癖もある登場キャラも魅力的。(個人的には銀龍とグルマスがお気に入り)丁寧な物語の流れや運び、影のある会話文、伏線の数々にも心を奪われることでしょう!秋月先生の傑作。さぁ、あなたもぜひ読んでみては?
この物語の大きな魅力は二つあります。一つは、主人公ジャネットが死して後、半年前に戻り、二周目の人生を歩むにおいての生き方。一周目で失敗した彼女は、より客観的に物事を捉え、自分が納得できるように生きようとします。一周目の自分自身を冷めた目で振り返りながら、前回とは別の手段を模索する彼女の力強さに惚れ惚れします。もう一つは、皇子との関係の行く末がじれじれと気になること。皇子の婚約者候補であるジャネットが、彼とどのようになるのかドキドキです。一周目では、一体何があったのか、彼との仲は悲しい結果に終わりました。それがあって、他の面では慧眼を見せる二周目のジャネットですが、皇子とのことについては諦観しています。二人は果たして幸せになれるのか。あなたも彼らの歩みを追ってみませんか?