評価:★★★★☆ 4.2
会社の忘年会で少々飲みすぎた私、秀野由実は、上司の和気さんとホテルで一夜を明かした。うん、明かしたことは明かした。……あれ?
恋愛はそれなりに重ねてきた私だが、この幕開けは「???」だらけで戸惑うばかり。しかし和気さんには、ネガティブ思考を自認する私の特殊なツボにドンピシャはまる、ある稀有な魅力が備わっていて……。二十代半ばの独身女性を惑わすあれやこれ。そこはかとない不満や不安。彼女のリアルに寄り添い、その心の揺れ動きをぜひ見届けてください! きっとあなたもクスリと笑えてホロリと泣ける、上質なエンタメ中編。作者が代表作と自負する入魂の一作です。【ムーンライトノベルズに掲載している『出航前夜』を若干改稿&小分けしたものです。】【アルファポリスにも掲載しています。】
話数:全35話
ジャンル:オフィスラブ
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:R15
切なくも爽やかで、清々しい読後感。 不倫を描いた作品で、このような読後感を得られるとは思ってもいなかった。 だがラストまで読み終えた後、タイトルを見たら納得だ。『出航、前夜』 まさにこの作品に相応しいタイトルであり、これ以外はあり得ない。あなたも読めばわかるはずだ。 主人公の女性とその上司にあたる男性。2人の関係は不倫だったかもしれないが、人を好きになること、人と深く関わることは、たとえどんな結末を迎えたとしても意味のあることなのではないかと感じてしまう。 そんなこの作品。とにかくリアリティが凄い。主人公の思考や次第に剥き出しになっていく感情にグイグイ引き込まれ、小説を読んでいるという感覚ではなくなっていく。 少しずつ変化する気持ち。 その気持ちに対しての葛藤。 そして導き出した答え。 その全てに彼がいて、彼女は成長していく……。 間違いなく特別な作品だ。
まず一言。不倫ダメ絶対。しかし現実の倫理観は横に置いておきましょう。フィクションだからこそ触れられる価値観がここにはあります。主人公は不倫を重ねる女性。既婚男性と割り切った交際関係を続けます。まずは第一話をお開きください。読書家なら、冒頭三行でこの作品のレベルの高さがわかることでしょう。まるで、お酒の席で危なっかしい女友達の体験談を聞くような。等身大のリアルな女性を描き出し、グイグイと読ませてくれます。完結作です。一気読みしてください。物語の根底にあるのはおそらくエレクトラ・コンプレックス。主人公が大人として成熟するために乗り越えてゆく荒波を、ぜひ一緒に航海していただきたい。
不倫の何が悪いの?いや、悪いだろ。何いってるんだ、と思われる方、悪くないよ、だって好きになったら仕方ないじゃん。と思われる方、考えはそれぞれだろう。この小説は主人公いわく理論武装で不倫を肯定している女性の、生々しい等身大の感情を見事に書ききっている恋愛小説である。1人の人間の心をとことん出してくる。どこまでもリアルで、他人の心を読める道具でも身に付けたような、或いは他人の秘密の日記を読んでしまったかのような感覚になる。人の感情はうつろいやすい。だから人は形を求めようとする。その定型に主人公は反発しながら、いつしかかつて自分が嫌いだったその欲求が出始め、矛盾を突きつけられる。矛盾を通じ、主人公は自分と向き合い、成長していく。私は不倫否定派だが、小説として、この作品は絶賛するしかない。大人になりかけの、そして大人のために向けられた上質な恋愛小説だとおすすめする。