評価:★★★☆☆ 3.3
仮想の時代、大正参拾余年。
その世界では、鉱石は薬として扱われていた。
鉱石の薬効に鼻の効く人間が一定数居て、彼らはその特性を活かし薬屋を営んでいた。極楽堂鉱石薬店の女主の妹 極楽院由乃(ごくらくいんよしの)は、生家の近くの線路の廃線に伴い学校の近くで姉が営んでいる店に越してくる。
その町では、龍神伝説のある湖での女学生同士の心中事件や、不審な男の付き纏い、女学生による真珠煙管の違法乱用などきな臭い噂が行き交っていた。
ある日、由乃は女学校で亡き兄弟に瓜二つの上級生、嘉月柘榴(かげつざくろ)に出会う。
誰に対しても心を閉ざし、人目につかないところで真珠煙管を吸い、陰で男と通じていて不良女学生と名高い彼女に、由乃は心惹かれてしまう。
だが、彼女には不穏な噂がいくつも付き纏っていた。※作中の鉱石薬は独自設定です。実際の鉱石にそのような薬効はありません。
カクヨム・アルファポリスに重複投稿しています。
話数:全38話
ジャンル:
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:ガールズラブ
主人公、極楽院由乃は漆のような黒髪の美しき女学生。姉であり薬屋の奈落は男装の麗人であり、また由乃が一目惚れする相手嘉月柘榴はとある美少年を連想させる影のある美少女。フェティシズム満載の性的倒錯の数々と、過去を連想させる鉱石の如きレトロモダンストーリー。閉鎖的な箱庭宇宙のようで、しっとりと懐古的な魅力。妖艶かつ瑞々しい世界観は西洋風異世界小説にはない空気。まるで百合の花びらの如く倒錯的な美しい世界観は、真珠煙管の退廃もあいまって星屑の幻想のように輝くーーーー!!!!幻想大正異世界浪漫、石薬屋へようこそ。
こちらは少女たちのひたむきな恋慕、憧憬などのたおやかな日常に、サスペンス要素が加わった小説である。群を抜いた完成度で世界観が練られ、じっくり読めば読むほど彼女たちの個性豊かな魅力に惹かれていく。小説全体を通し、美しいという印象を抱いた。レトロな文体と設定は、この世界観への憧れさえ抱かせる。読みごたえのある小説になっているので、ぜひ彼女たちの物語に触れてみてほしい。
この作品の最大の特徴であり、根幹を為しているのが大正ロマンを見事に書き上げた心理描写と文才だろう。文才を古風にして描写を緻密にするだけではこの作品を作り上げることは出来ない。考え抜かれた設定構成、主人公由乃と彼女を取り巻く女性達の人間関係、柘榴に秘められた謎といった読者を惹き込ませる周到さこそがこの大正ロマン的な世界観を表す根幹となっている。文章の文字がぎっしり詰まった読みづらさでさえ読ませるためのスパイスのように感じた。稚拙さの目出すなろう小説の中で粗さえ見つけることの難しいこの作品は「なろう」のニーズには適していないのかもしれないが、それでも私はこの作品がもっと日の目を見るべきだと思う。