評価:★★★★☆ 3.9
能力者が跋扈する世界において、能力がないのに剣を志す青年、遠見テツ。彼は無能力の変人として有名だった。そんな彼はある日、道場の仲間たちと共に奇妙な空間の渦に巻き込まれる。飛ばされた先は、能力者の存在しない『普通の世界』という名の『異世界』。転移に伴って仲間たちの能力は失われてしまう。そんな中、元から無能力だった遠見テツは、何ひとつ変わらないまま相対的に彼らより有利に立つことになる。
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:R15
人の精神力はどれだけ強いのか、この小説の主人公であるテツによって語られます。異世界に召喚されたことに疑問を抱きながらも生きていくテツとその場に巻き込まれた道場の生徒たち。 彼らはあっちの世界では能力者として活躍していたけれど、こちらではまったくその逆。その能力者ではなかったテツは毎日欠かすことなく練習を続けていたせいか、異世界に召喚されても彼はなにも変わることない。 人を殺し、略奪し、剣でまた人を殺す。人を殺すことは難しいはずなのに、それをあっさりとこなす精神力は人以上のもの。あなたなら、異世界に召喚されて人を殺すとなったときにどうしますか? それを考えさせてくれますし、努力は人を裏切りませんってことを再確認してくれますよ。
始め少年は憧れるものに、ただ近づきたかった。その渇望が彼を導き、彼を突き動かした。……しかし、ある時それが不可能だとわかる現実の不条理は、その目的を否定したが、彼は自らのあり方を変える事で、それを越えようとした。彼の中に「信念」が生まれるのである。彼が自らの有り様に肯定しつつある時、それが起きる……異世界という世界が。元世界で意味を見い出されなかった彼の努力は、異世界で表出するが、元世界において見出した「信念」は、異世界において彼を揺さぶる。異世界で立ち位置の変化は、彼の生き方を否応なく変えようとしていた。それは彼だけでなく、異世界に来たすべての人間に直面していた。……そこに異世界モノの本質を感じた。じっくりと丁寧に描かれた描写によって、リアリティが生まれ、世界と人物の深みがもたらされている。それは読者を物語の迷宮に捉えて離さないだろう。ぜひ読んで欲しい