評価:★★★☆☆ 2.5
1945年8月。日本は敗戦国となり、国民は「占領」という未曽有の事態に直面する。戦火で住む場所を失い、極度に物資が不足する混乱状態の中、誰もが先の見えない日々をもがき苦しみながら生きていた。戦後占領期である。
東京で叔母と暮らす大学生早見能啓は、生活費や学費を工面するためにその語学力を生かしてGHQ内の一部署であるCCD(民間検閲局)で検閲官として働き始める。
生活に困窮しているとはいえ、同胞の郵便物を検閲するということに対してはじめは良心の呵責に苛まれていた早見であったが、やがて己の内に潜む未知なる一面に気付き始める――
話数:全23話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
最初は平坦な文章だと思った。凡庸とも。あえてミスヤマモトの言葉を借りれば「本来きわめて情緒的である」歴史の再構成なのに、著者「はそれに呑まれていない」のである。しかし、精緻な歴史的整合性に惹かれ読み進めるうちに文章の性質が明らかに変わっていくのを感じた。焦燥した心理描写によって、あまり作中後半では書かれない戦後の混乱が描かれているようであった。これが筆者の巧妙な戦略であることは、タイトル「鬼火」からも明らかであろう。検閲官という存在によって、戦争を描こうとする構図はまるでフランツカフカを思わせた。文体は誰だろう。アップダイクやフィッツジェラルドだろうか、私には分からない。エピローグは芥川か?そんなことはともかく、検閲官を描くことで戦争の理不尽さを描く構図が素晴らしい。文体も良い。新作が出たら読もうと思う。