評価:★★★★☆ 4.1
ーーー1868年、パリの郊外。
雨音とは別に響く熱い音にエドマは唇を噛みしめる。
腕を振るたびに、乾いた音がする。
心も身体も、震えるほど冷え切っているのに。掌だけが、燃えるように熱い。
蓋をしていた想いを暴いた婚約者・アドルフは普段の軽い口調とうって変わった低い声でエドマの手を止めた。
もうこれ以上は。
貴女の手が傷んでしまう、と。マネ、ルノワールと同じ時代を生き、フランス画壇の華であったベルト・モリゾと並び立つ姉、エドマ・モリゾは突如、絵筆を折った。
結婚はしない、私はずっと絵を描いていく、と周囲に言っていたエドマ。
その心が変化していった真相とは。*週1更新を目指します。
*完結しました。無断転載を禁じます。
(c) なななん 2018
話数:全34話
ジャンル:仕事もの
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
たとえ嫌われようと、相手の為を思えば、時として厳しい態度を取らなくてはならない。 19世紀、芸術の都パリ。海軍将校のアドルフは、後に婚約者となる、ひたむきに画家を志す、たおやかな女性エドマを見初める。アドルフはすぐに彼女の秘かに抱える歪みを見抜いた。 過去の自分と同じ闇。 救いたいと悩み葛藤するアドルフは、エドマと真剣に向き合い、決意し、残酷な現実を突きつける。 そして彼女の心の叫び、溢れ出る激情、絶望をすべて受け止め、思いやる。 追いつめたのは自分、癒すのも自分。 どうか早く自分へ堕ちて欲しい……。 アドルフは心から、そう乞い願う。 このような愛し方をする如才ないヒーローのアドルフが、とても魅力的なのです。後半の彼の甘さは、もう、言葉になりません。なので、ぜひ、ご一読を!
19世紀のパリに誕生した、稀代の画家ベルト・モリゾ。その姉にして、共に画家を志した人物でもあるエドマ・モリゾは、理想と現実の狭間に苦悩していた。 そんな彼女の前にある日、彼女の絵が好きだと言う、アドルフ・ポンティヨンという男が現れて――? 画家になりたいという夢と、才能という壁。その狭間と現実を前にして苦しむエドマと、そんな彼女に己を重ね、手を差し伸べるアドルフ。婚約者として出会った彼らは、どのような道を選ぶのか。 実在の人物にスポットを当て、当時の世情を描きながらも紡がれていく「変化」の物語。気丈ながらも純情なエドマと、そんな彼女に惚れ込むアドルフの恋模様にも注目です。 ぜひ、ご一読ください!(^^)
彫刻の巧みな作り手は、材料の中に完成形を見出してそれを掘り出すように作品を作るらしい。この作品も、それに似たような楽しみ方ができる、かもしれない。エドマ・モリゾという実在の女性に訪れる大きな転機。あらすじにも示された結末へ、一話、また一話と変化していく。「既知の結果へ至る過程」に価値が無いなら、「死」という結果が定まった生きるという行為にもまた、価値は無い。人生という過程のドラマチックな部分、そこでの細やかな変化が、私にとって最大の魅力だ。一つ、注意してもらいたい。彫刻される石や木とは違い、人間にとって急激な変化は、時に痛みを伴う。それは肉体、精神を問わない。変わるエドマに心を重ね過ぎると、痛い思いをするかもしれない。わずかな期間で、彼女は大きく変わるからだ。