評価:★★★★☆ 4.4
玄界灘。
この黒い潮流は、多くの夢や欲望を呑み込んできた。
人の命でさえも――。九州は筑前の斯摩藩を出奔し江戸谷中で用心棒を務める萩尾大楽は、家督を譲った弟・主計が藩の機密を盗み出して脱藩したと知らされる。大楽は脱藩の裏に政争の臭いを嗅ぎつけるのだが――。
賄賂、恐喝、強奪、監禁、暴力、拷問、裏切り、殺人――。
開国の足音が聞こえつつある田沼時代の玄界灘を舞台に、禁じられた利を巡って繰り広げられる死闘を描く、アーバンでハードボイルドな時代小説!※カクヨムにも掲載中
<毎月15日、月末辺り更新予定>
話数:全78話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:江戸
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
「ハードボイルド時代劇」この物語を一言で表すなら、この言葉しかないだろう。九州は玄界灘から江戸へ流れた、萩尾大楽。閻羅遮と呼ばれるその男は、谷中で用心棒として町民に慕われていた。荒事を片付けながらも穏やかに暮らす大楽の元に、捨てたはずの故郷、弟。そして、かつての恋人、縫子を脅かす敵が現れる。欲望渦巻く、斯摩藩の御家騒動に巻き込まれていく大楽は、故郷を、弟を、縫子を守る事が出来るのか。確かな筆力で描かれる、名刀「月山堯顕」の煌めきと、大楽の熱い想い。時代小説を読んだ事のない方も、ぜひ目にしてほしい。漢の熱い血潮が、激しく心を揺さぶるだろう。
〝なろう〟の歴史小説と言えば、歴史改変ものが主流の中、この作品はまさにその流れに逆らい、確かな実力で勝負する意欲作だ。主人公は男らしく、それでいて繊細。江戸は谷中を舞台に駆け回り、事件に翻弄される。ただ強いわけでなく、哀歓の漂う主人公の思いには、そこに生きる人間の息遣いが生々しく感じられる。様々な要素が丁寧に物語の中で絡まり合い、読み進めるほどに魅了されてしまう。続きが楽しみで仕方がない。一冊の本として一気に読みたい。こんな作品を待っていた。