評価:★★★★☆ 4.2
意匠を凝らした、凝りに凝った重層構造! 著者の渾身の姿勢が窺える小説世界。(読者より)主人公の「私」(太田)と幼馴染の河井、両家の祖先は相模の地・幸田村の草分けであり、現代を生きる二人もかつては一目置く仲であった。だが河井はなぜか400年以上も前の先祖の所業に固執、「私」を大いに翻弄する。物語は過去と現代のエピソードを交互に披露しながら、次第に河井の苦悩を明らかにしていく。息をひそめながらそれを見つめ続けた読者を最後に待つのは、意外なことに「私」自身の秘密の暴露であった。ラストの描写が暗示的にも感じられた分、疑念が疑念を呼び、余韻を残す結末となった。原稿審査担当部署にて丁重に拝読した結果、弊社の全国流通出版をご提案できると判断されました。(B出版社編集者A氏の書評より)
話数:全69話
ジャンル:ミステリー
雰囲気:シリアス
展開:未登録
注意:全年齢対象
どうも、気になっていた。もう一度、読めば疑問は解けるかと思っていたが、読めずにいた。 昨日、久しぶりに読もうと思って、のぞいてみたらびっくりです。章の構成は違っているし、最後が追加されている。 疑問解消への期待が増しました。作者の本位ではなかったのではないのかと思いますが(読解力不足の私みたいな読者へのサービス?)、「遺小説」ってそういう意味なのか、と分かったとか、3つの疑問が解消しました。それら、全て、伏線があって、私に読解力さえあれば、分かることでした。 これだけの複雑な構造、巧みな伏線、最後に、全ての支流が本流に流れ込んで、一気に感動のクライマックスへ。二度目に挑戦して、本当に良かったです。 作者はこの作品を完成させるのに相当の歳月をかけたに違いありません。それだけでも、価値を感じます。ご苦労様でしたと心から言いたくなる作品でした。
一体、どれだけトラップが仕掛けられているのか。予想が次々に覆されていく。予想だけではない。こうだと思ったことが次には思い違いだと分かる。 特に後半、こう来るかという展開が始まって、次々に起こるどんでん返し。そして、突きつけられる。私たちの常識というものへの挑戦。 「自死を罪を悔いての自らに課した懺悔の罰、そう考えて自死したと思われたら、これほどの屈辱はない。」死を以て、どうして罪が消えるのか。どうして罰になるのか。自死者はだれもそんなことを信じていない。信じているのは、ただ「これでもう事件は起きない」と安心したい部外者だけだ・・・。こんなことをしているから、また、同じことが起こる、と言いたいのか。そう言えば、サリン事件の松本が死刑になってからの、この蔓延する安ど感は・・・。何も変わっていないのに・・・。 さて、この小説の題名「遺小説」。これが最大のトラップ。遺書ではないのだ。
作者がこれは推理小説だといい、前書きにも「読者を最後に待つのは、意外なことに「私」自身の秘密の暴露であった」とあるので、読み進んだとき「ああ、これね」と早とちりしてしまった。一度思いこむと、はっきり書かれているのになかなか修正できないものだなあと妙に感心した。 単なるノスタルジアといわれそうだが、「私」と同世代の私には、三島由紀夫の割腹自殺、成田闘争、内ゲバ、吉本隆明・羽仁五郎・廣松渉の著作にもそれなりのリアリティを感じた。 作者は、大和市に遺る史料が、歴史を支えた人々の記録としてもっと注目されることを願ってこの小説を書いたという。愛知県に住む私には縁遠い場所だが、作者がいうとおりウェブで史料の概要を見ることができたし、土地勘のなさもグーグルマップで補うことができた。地元の人は、私以上に楽しめるのではないかと思う。