大学を卒業して以来、博物館で監視員のアルバイトをしている北川あまねは、代わり映えのしない生活を送っていたが、謎めいた初老の視覚障害者・槇村に出会い館内の案内したことを皮切りに、彼女の周囲はにわかに動き始める。
親しい間柄の先輩・可織は、結婚するために監視員の仕事を辞めると言い出し、恋人・響太からは突然の別れを告げられてしまう。失うことを恐れていなかった彼女にとって、それは現実味を帯びないものだったが、響太が本気であることは嫌というほど強く感じられた。だが、あまねは一方的に切り出された「別れ」に納得がいかず、時間を空けてからもう一度会いたいと求める。
思い悩みつつ日常をやり過ごすあまねは、ある日槇村から誘いを受ける。動物園に行くことになるが、元々動物園が苦手だったために貧血を起こしてしまう。そして、それをきっかけに彼女は槇村の過去と秘密を知り、目をつぶって歩くレッスンを通して奇妙な連帯感が芽生えるが、槇村はその日を境に常設展に顔を見せなくなり、ここから自らと向き合う日々が始まることになる。
ほどなく、あまねは響太と会う約束をし、手紙を書くために思い出の場所へと足を運ぶ。鮮やかな記憶に胸を締めつけられながらも、響太への手紙は形を成し、次第に別れを縁取っていく。しかし、あまねは最後に「さようなら」を書けず、有り余るほどの孤独が目の前にあることを自覚し苦しむ。
そして、あまねは可織の勤務最終日に遠回りをして博物館へ向かうことにする。公園の中を通り抜けながら槇村とのことを思い出し、目をつぶって歩いてみる。すぐに断念して目を開けてしまうが、目の前に広がる情景を見やり、あまねは現実を受け入れるための第一歩を踏み出すのだった。
※この作品は「note」にも掲載しています
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