評価:★★★★☆ 3.9
〝千年王国〟。それは、神から与えられた〝約束された繁栄〟。
大昔の人間は、怠惰で、傲慢で、強欲で、醜かったという。
そんな人間に神は怒り、罰を下した。
天変地異が全てを破壊し、大洪水が全てを洗い流した。
まっさらになった世界で、人間は己の罪深さを思い知った。
深く恥じ入り、悔い改めることで、神に許しを乞うたのだ。神への絶対的な遵従《じゅんじゅう》。
これと引き換えに人間は〝千年王国〟を与えられた。
千年王国に在る限り、人間は理不尽な死、病、飢え、争い……あらゆる醜いものから解放されるのだ。
全てが満たされた至高の世界を、人々は口を揃えて褒め称える。その裏でひっそりと、姿を消した三人の叛逆者がいた。
ひとりは少女。
神と人間への反逆者として、永遠の孤独に苛まれる。
ひとりは少年。
神に単身立ち向かうも、その結末は語られない。
残るひとりは誰も知らない。
名前も、素性も、存在すらも明かされぬまま……神が創り給うた完璧な世界。
その世界に於いて、神への叛逆は最大の禁忌。
禁忌を封じ込めた世界は、永らく完璧であり続けた。
だが、永遠に続く完璧などは存在するはずもなく。世界に小さな穴が穿たれた時、ひとりの叛逆者が再び目を覚ます――
※この作品はカクヨム、ノベルアッププラスにも掲載しています
時代:未登録
舞台:西洋
注意:残酷な描写あり
この世にある筈の、罪、悲哀、苦痛、死から解き放たれた世界。少女は見果てぬ空を目指す、少年は少女を支えともに行く。汚れなき子供達が見た物や見る者は・・・・。囚われたルシファー、少女達は彼を見て何を思い何を感じるのか。死の足音が少しずつ少しずつ迫って来る。是非一読して見てください。作者様の独特な世界に魅了されます。
“あらゆる””苦しみ””、””悲しみ””、””罪””から解放されたはずの世界。その世界は「亡き母に会いたい」という純粋な少女の願いによってひび割れ、壊れ始める―。シシィとアラン。純粋で優しく、また汚れを知らない2人の少女と少年の一人称視点で語られる世界。その世界から””罪””が封じられた経緯、そしてそれが崩壊し、悲劇が始まるシリアス描写は読者を唸らせ、読み込ませる秀逸な作品です。壮大な世界観を淡々と、しかし的確に読者に伝える術を持っていらっしゃると感じます。事実、私は一気読みしました。世界を愛しているはずなのに、その世界によって壊れていくシシィとそれを守ろうと必死になるアラン。二人の物語の結末と、その余韻に、あなたは魅了されるはずです。おすすめします。”
神より賜りし世界は罪無き世界。完璧な世界に罅を入れたのは、一方的側面として、母に会いたいという少女のいじらしい願い。本作は昏く無情でありながら、どこか柔らかい作風です。しかし、柔らかい鉄の方がよく刺さる様に、ページを進めるごとに、或は禍が開示されるごとに読む方は心を抉られるでしょう。それでもこの世界は離してくれない。心を掴んで離さない。アランとシシィの行く末を見てみたい。優しく、残酷で、温かく、無情な物語。ともすれば矛盾しがちなこれらの要素を兼ね備えた作品は、中々お目にかかる事が出来ません。もしも心に刺さる作品を欲するなら、私はこの作品を進めます
舞台は、神への服従を代償に、”怪我、病、理不尽な死から守られている世界”。『お母様にもう一度会いたい』と空を目指すお嬢様の【シシィ】と、付き人の【アラン】が物語を彩る。”イカロス”と呼ばれる飛行装置で、空を飛んだある日、彼女は夢の中で”叛逆”の罪で捕らえられているという【ルシファー】と会い、物語は加速していく。ーーもうすぐ”死”が蘇る。練り込まれた壮大な世界観、徐々に明らかになっていく世界の謎がさらなる深淵と誘います。平穏は終わりを告げ、重苦しい雰囲気、絶望と隣り合わせにあるような構成だからこそ、読み進め、どんな着地を迎えるのか見届けて欲しいと思える作品です。