評価:★★★★☆ 4.3
長い長い旅の果て、ダイスとその妻が不時着したのは砂漠の星。
スイカが泡のように現れ、猫に似た生物の住む星。
この星には大いなる掟があった。
「食べたことのないもの」を食らうたびに強くなる、という不思議な法則。ダイスは妻のため、そして未来への希望のために、この星の最底辺の種族、「猫」たちを育てることを決意する。
R1.11.19 本編完結しました、現在は外伝を投稿中です。
時代:近未来
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:成り上がり
注意:全年齢対象
スイカの星、その長閑なタイトルから連想される、童話のような物語かと思いきや――。 違う、そうではない。この物語は、あまりにもSFなのだ。 特別な存在でありながら、特別な力を失った主人公が、愛する者、守りたい者のために、力を尽くして抗う物語。ダークサイドに堕ちることなく、それでいてしれっと混入されるディストピア要素。行き詰った世界観とは不似合なほどに、かわいらしい猫たちの個性ある台詞。 そういったお話が好きな方には、ぜひ読んでもらいたい作品である。
「ダイス、地球に帰りたいわ」この台詞にこの作品の本質が現れていると思う。流行している異世界転生・転移系(SF含め)には、大抵の場合元の世界に戻りたいという考えはない。それが悪いというわけではないが、それは異世界や新天地がキャラクター=作者=読者にとって都合の良い事実上の天国だからだ。この作者にそういった甘い考えはない。逃避ではなく前進。そして模索。挑戦。成功と失敗。もしかしたら、そこは地獄かもしれない。迷いもある。試行錯誤を繰り返す。考察するなら、作中のドラゴンとは運命のメタファーだ。アメリカ軍によって原爆が投下されたときに、爆心地にいた赤子に選択肢があっただろうか?この物語の根底にあるのは、世界とは何かという問いかけにある。それは自分が決めるのか、誰かが決めるのか。答えを出せるものはいない。スイカはそれを新たな切り口で描いている。続きが楽しみになる作品だ。