評価:★★★★☆ 4.2
長い準備期間を経て発動された魔王軍による地上征服計画は着々と進んでいた。
その壮大な計画を実行するにあたり、魔王が処理すべき案件は多い。部下の扱いをはじめとする組織運営、複雑な政治事情、行動の予測できない数々の冒険屋たち。魔王は多くの苦労と努力を乗り越えながら、自軍のみならず敵についても共に最小の犠牲で、そして最大効率の方法を模索しつつ、征服を進めていた。
一方、辺境にてある15歳の少年が立ち上がった。自ら「勇者」を名乗り、「魔王を斃す」と嘯く実力に見合わない自信など奇異な言動の目立つ彼だが、彼の周りでは当たり前のように「奇蹟」が起き、彼を味方していた。「愛と勇気で何度でも立ち上がる」「ピンチになると覚醒する」「短期間の修行で劇的に強くなる」そんなふざけた奇蹟が。
世界を征服しようと、そしてそれだけの力を持つ魔王軍は、たかがティーンの少年たちにその運命を狂わされることになる。世界中が、大した理念も信念もない少年によって汚染されようとしていた。戦術も戦略もない、行き当たりばったりの進撃に、魔王軍は為す術がなかった。
「主人公補正」によって哀れにも敗れていくすべての悪役に捧ぐ、逆転のファンタジー。
時代:未登録
舞台:異世界
雰囲気:未登録
展開:未登録
その他要素
注意:全年齢対象
正直ここまで邪悪な勇者は見たことがないです。もしかしたら邪悪ですらない、哲学的ゾンビのような操り人形なのかもしれませんが。魔王側も人間側も登場人物たちそれぞれが必死に生きているのにの彼らの人生も生命も尊厳も何もかも踏みにじり、あまつさえその悪行を正義として歪めてしまう。あまりにも醜悪で邪悪な勇者です。
世界を敵に回すというのは、どういうことだろうか?・全ての国の首都に核ミサイルを落とすぜ!・人類は虐殺だぁーー!ヒャッハーー!!・世界中の女の子はオレの嫁だ!オレ以外の男は死ね!なるほど、どれも確かに世界を敵に回すようなことをしているし言っている。しかし、この小説での「世界を敵に回す」とは少々意味合いが異なる。例えるならRPGゲームやマンガの「ラスボス」だ。彼らは、目的にあと一歩のところまで行きながら…敗れる。彼らは「主人公」に敗れるために存在するからだ。それが存在意義だと言ってもいい。彼らの、何をやっても覆らない、最終的に敗れるその理不尽な展開は、ある意味、『世界を』『運命を』『敵に回している』といえないだろうか?作中の誰が『主人公』で、誰が『ラスボス』なのかは、是非あなたの目で確かめて欲しい。そして、敗れたものの悲哀と怒りを理解してほしい。