評価:★★★★★ 4.5
町から馬鉄で開拓地の村に帰る父と小さな私、そして村の爺さんと便乗のおばさん。原野の地表に風は無いのに、冬の近い灰色の空はごうごうと唸っている。
小さな私は、父と同乗の爺さんやおばさんとの会話から自分が故郷を失う事になるかも知れないと気が付くが、それを絶対に失いたくないと父にしがみつく。(第53回北日本文学賞一次選考通過作品)
話数:全2話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
昭和三十八年まで道東に存在した殖民軌道風蓮線が廃線になっていく侘しさに重ねたかのような、「小さな私」が大切な故郷を失うかもしれないという不安が、見事に全2ページに描かれていました。「小さな私」の父親が『馬鉄の軌道の御者』であること、空の牛乳缶を運ぶ理由、便乗して荷台に乗ってきているお爺さんやおばさんは何者なのか……。作中、すべてが説明されているわけではありません。ですが、北海道開拓の村の歴史や、「馬車鉄道」と呼ばれる馬が小さな車両のような箱を引く(あくまで個人的に調べた限りの情報ではありますが)光景を事前に知らなかったとしても、何故か情景がふっと浮かび上がってきます。かつての北海道の地。村を出て行く人と、故郷を選んで生きてゆくと決めた人……その覚悟や哀愁が空にも反映されて、切なく美しい。多くを語らず、しかしすべてが凝縮して詰まっている作品でした。とてもよかったです。