「将軍家は女だ」
源実朝の叔父、北条義時は御家人(ばかども)の悪口に飽き飽きしていた。頼朝公の外戚として成り上がった北条一族への嫉妬と当てつけに、幕府を統轄する執権の彼は気の休まるひまもない。
さらに前執権の父が、実朝が胎児のころ「変成男子(へんじょうなんし)の法」という秘術を使ったと噂され、納得いかない。確かに、今年十六歳の少年将軍は少女のような美貌の持ち主である。武芸に関心を持たず、和歌づくりや絵合わせなどの趣味に加え、ついでに男好き?
「もしや本当に……」義時は疑念を抱きながら、甥を鎌倉の主として支えた。当の実朝は、父頼朝の幕府草創期の苦労も知らず、それゆえ誰よりも純粋で慈悲深い君主に育った。
争いを好まず、世の安寧を願う実朝は、合戦時代を引きずる荒れくれ武者たちをまとめるため、武力による抑圧ではなく、文化による統治を目指した。
叔父の執権と甥の将軍家は、ときに衝突し、ときに協力し合いながら、武士の都、鎌倉の発展を模索する。そんななか、二十一歳になった実朝は、義時の政敵である和田一族の嫡男、朝盛と恋に落ちる。十七歳のときにかかった疱瘡の後遺症のため、恋を知らなかった実朝は、野心をもって近づいた朝盛の性に溺れ、心と体を支配される。
実朝の恋人への盲目的な愛は御家人たちから離反を招き、新世代の武将から謀叛を企てられてしまう。そして、その余波により、和田一族と幕府方の義時は武力衝突に至るが――
鎌倉の王者の生と性をめぐる、武士(もののふ)たちの狂騒曲(ラプソディ)。
※警告タグはつけていませんが、エロが苦手な人は第8・9部分の「月の恋人」はお避けください。合戦シーンのある第11・12部分も人によっては「残酷」と感じる方がいるかな。以上、「警告」ひとつ前の「ご注意」でした。
※ブックマーク・評価ありがとうございます。
こんな辺境の地にまで足を運んで頂いて、ほんとうに感謝感激です。
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源頼朝によって鎌倉幕府が成立した後、兄の不慮の死により、若くして源実朝は三代将軍に就任するが、歌や絵、美男を愛でる美貌の少年には「女である」という噂があり、武断の家臣たちから白い目を向けられていた。彼を擁する叔父、北条義時は甥や周囲に対する鬱屈した感情を理で押し込め、幕府を差配する。だが、父兄の遺臣たちの対立と謀略は、やがて血で血を洗う骨肉の争いへと転じて……相反する二人は、互いの情と理に翻弄され、公私の矛盾に悩みながらもその荒波を乗り越えて、実朝は将軍として成長していく。雪積もる運命の夜が明け、鎌倉に狂騒の曲が鳴り響く時、待ち受ける結末とは?悲運の将軍と苦悩の執権の生涯を、情感ゆたかな描写が時にユーモラスに、時に切なく描いた大河であり、メロドラマ。王道にして異色、異色にして珠玉の名作です。