評価:★★★★☆ 4.2
陰陽師家の側室として嫁いできた鹿の子。しかし鹿の子は妖しも家鳴りもみえない、霊力なしだった。側室に不相応だと初夜に御寝所から追い出され、それからずっと、かまどの見張り番。旦那様が与えてくださったお仕事だからと、鹿の子はかまどから離れない。あまりに離れないものだから、皆にかまどの嫁と呼ばれるようになった。やがて知る陰陽師家の習わしと己に課せられた使命。向き合いながら、ひたむきに菓子を作り続ける鹿の子。かまどの周りには甘いもん好きの妖しがうろちょろ、うろちょろ。人も神様も砂糖に甘く解かされていく。そんなお話し。
【エンターブレイン様より書籍化しました】
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:江戸
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:R15
誰も彼もが恋をする。それは、人間も、神も、あやかしも。生きてる者も、死んでる者も。一途な恋も、移ろう恋も。幸せに包まれる恋も、その身を引き裂かれるような恋も。胸の奥にひたひたと隠す恋も、隠しきれない恋も。何度冷たい涙を流しても、その想いは止められない。それでも、鹿の子のお菓子を食べれば、その心はついぞ隠しきれず暴かれてしまう。暴かれて傷つくのではない。いつだって、その心は甘く丸く癒される。この物語にでてくる人は、誰も彼もが恋をしている。恋は時に人を愚かにさせる。騙し騙され、時には自分の命さえも頓着せず、繋がった縁の糸をわざわざ複雑に絡ませる。不器用に涙を流し、そんな時は鹿の子のお菓子を食べて笑うのだ。これは神に捧げるお菓子を作り出す御饌巫女となった鹿の子と、その周りの人々の恋のおはなし。鹿の子は今日もかまどで餡を練る。
多彩な登場人物が、物語が進むに連れそれぞれに変化していく。笑いあり涙あり、先読みの出来ない展開なのに、完結してみると辿るべき一点に辿り着いたという爽快な読後感。主人公は、神様の御用菓子職人。和菓子は、洋菓子に比べて少ない材料で、割と簡単に作ることができる。だからこそ、至高の職人の手による神に愛される出来とはどんなものかと思う。特別上等な菓子を口に含んだ時のような、何度も味わいたい物語です。
一つ一つ、想いを込めて。 身近にある和菓子を題材にした、どこか懐かしさを感じさせてくれる作品は、出だしは焦れ焦れと醤油飴のようで、少し経てば思わず頬が緩むくらい、濃密な水飴の様な甘さを感じさせてくれる作風だと、連載初期は捉えていた。 それがどういうことだろう。 話が進むに連れ、当主である月明、その側室である少女・鹿の子、そして、式神である久助、時々クラマ(お狐様)の想いが交錯するたび、自然と瞳から溢れ出す温かな滴。 物語が終幕に近づくにつれ、物語は甘さの中に寂寥感と少しの塩気を携え、心に訴えかけてくるものがある。 人とは何か、縁とは何か、そして鹿の子の手から作り出される菓子に込められた想いとは。 ヒトと、妖と、神々が織りなす架空世界での心温まる和風物語。 私には、大切なヒトにまだ伝えきれてない想いがあると気付かせてくれた作品。 どうぞ心行くまでご堪能下さい
主人公の鹿の子が作る和菓子は神様へ捧げる絶品! 陰陽師家の側室として嫁いできた鹿の子なのに 妖しも家鳴りもみえない、霊力なしだった。側室に不相応 だと初夜に御寝所から追い出され、それからずっと、かま どの見張り番。 なんて、冷酷な旦那様なの! ここまで読んで全員が怒る筈です。 そして、旦那様が与えてくださったお仕事だから と、鹿の子はかまどから離れずに『かまどの嫁』と呼ばれるようになったと読み進み、可哀想にと感じるかも。 でも、鹿の子の作る和菓子の魅力に妖しや神様や全ての人が魅力されていきます。 ひたむきな鹿の子が幸せをつかめるのか? 読み出したら止まりません。
まだ読んでいる途中ではありますが、第一印象として驚かされるのはその繊細な筆致である。 「行間を読ませる」という手法を、これほどまで見事にやってのけている作品はそうはないであろう。はっきりとした描写があるわけではないのに、日本の原風景が脳裏に浮かぶのだ。 それだけでも十分一見の価値のある作品ではあるが、ストーリーは勿論、何より「お菓子」。何を置いても「お菓子」。これがもう、ただ只管においしそう。深夜に読んでは決していけない。ダイエット中の方もいけない。間違いなく和菓子を買いに走ることになるであろうから。