ひとりむすめ 完結日:2018年4月21日 作者:山下真響 評価:★★★★★ 4.5高校三年生になった千代子にはパートナーがいます。声が小さすぎる『夫』との共同生活をする中で、ある特殊な力を手に入れました。池に棲む鯉が大海に出るまでのお話。 ★この小説は山下真響の著作物です。 話数:全30話 ジャンル: 登場人物 主人公属性 未登録 職業・種族 未登録 時代:未登録 舞台:未登録 雰囲気:未登録 展開:未登録 その他要素 バー 夫婦 学園 家 日常 親 親友 注意:R15 なろうで小説を読む
美しくて不可思議で、胸の奥底に沈む大事なものを思い出させてくれるような物語だ。私は、この作品に出会えた幸運を思う。既に別サイトでも本作に書評を書かせていただいたが、何度書いても足りない。これはまるで澄んだ池の中、凝縮された空間に生きる魚が、天へと昇るような話だ。辛いことも苦しいことも悲しいことも遣る瀬無いことも、人生には数えきれないほどあるけれど、それでもゼロからイチに進むのだよと優しく厳しく諭してくれる。お金を払ってでもこの作品を手元に置きたい。そして私が人生でくじけそうな時に読み返したい。ぜひ、書籍化を希望する。
出口の見えない展開ながら、千代子の丁寧な語り口調がそれを払拭させてくれる。愛憎の果てに生じる鋭い洞察力、その応酬。とにかく先が気になって仕方ない。十も違う結婚相手は名前くらいしか知らない。まして自分は現役高校生……冒頭だけでラブコメを期待した私が馬鹿だった。見事に裏切られた気分。重い。辛い。救いがない。そしてまたも裏切られた。救い以上の物がラストにあったから。
何をもってして家族だと言うのでしょうか。何があれば、愛されていると言えるのでしょうか。血の繋がりがあれば家族?実の親子でも傷つけあう人たちがいれば、養親と養子でも仲睦まじく暮らす人たちがいます。愛があれば家族?そもそも愛とは何でしょうか。厳しい思いやりは愛ではないのでしょうか。一見甘い自分勝手な価値観の刷り込みは、愛と言えるのでしょうか。物語の主人公は、胸に寂しさを抱えた女子高生。唐突に結婚の決まった彼女は、父親にも夫にも距離感を感じています。そんな彼女の日常は、彼女と夫との境界線が曖昧になると同時に少しずつ揺らぎ始め……。「家族」というだけで、無意識に期待し、愛を求めてしまう。けれどそれが自分の手に余るほどの大荷物なら、一旦手放してしまっても良いのかもしれません。下ばかり向いていては見えない景色が、きっと見えるようになるはず。幸いの意味を決めるのは自分自身なのです。
丁寧に書かれた文体は怪しくも繊細で綺麗。物語全体に不思議な雰囲気が立ち込めているのは、古い古い近代文学や怪奇文学の雰囲気を、人と人の所謂ヒューマンドラマに採用したからではないだろうか。時代自体は新しく、雰囲気が酷くノスタルジー。その誤差のコントラストが独特で、とても心地よいです。主人公はまだ少女。それなのに結婚しているという一風変わった設定のお話で、どんな読み手でもお楽しみいただける良作だと思います。推させて頂きます。